高校の時は寝てたけど、彼女とか、そういうんじゃなかったし。
あたしがどんなに……将清のこと好きでも、ダメ……なんだ……
将清を見捨てないでやってほしい。
あらためてミドリの言葉が一つ一つ優作の脳裏に浮かんでは消えた。
つまり何? 俺はミドリに将清のお守り役をバトンタッチされたってことかよ?
なぜ自分なのかとか、いくらでも疑問は残っているが、背中に張り付いているこの男を優作は突き放すことはできなかった。
「冷えてるじゃないかよ、コーヒーでも飲もう」
背中の男がようやく離れたので、部屋に入って小さなキッチンに向かうと、優作は湯を沸かし、マグカップを二つ用意した。
「今からメシ?」
将清はテーブルに置いた弁当を見てたずねた。
「いや……さっき、ミドリにファミレス奢ってもらったから」
「え、じゃ、それ、食っていい? 腹、減ってて」
優作は呆れて、「わかったから、ちょっと待ってろ」と弁当を袋から取り出してレンジに入れた。
「あのさ、ミドリからちょっと、お前がいろいろあったって話、聞いた」
黙っているのはフェアじゃない気がして、優作は言った。
「そうか。友達が理不尽に殺されて、ガキだったし、俺のトラウマ」
将清は軽く、そういった。
「だから、クスリとかやってるやつや売ってるやつなんか見た日には、ドンだけぶん殴っても飽き足りない」
「お前さ、それ、抑えること覚えた方がいんじゃね? そのうちケーサツ沙汰になっちまうぞ」
優作は真面目な顔で将清に忠告した。
「んじゃ、そんな時はお前、止めてくれ」
笑みを浮かべて将清はそんなことを言う。
「俺のこと吹っ飛ばしたくせに」
「そんでも」
へらへら笑っていながら将清は優作の頭に手を伸ばして掻き回す。
優作はその手を振り払って「バッカじゃね! 俺をガキ扱いすんな!」と睨みつけた。
優作の大学生活は思っていた以上に有意義に過ぎていった。
何かあれば主に将清を中心にことは進み、常に将清とセットでカウントされていた優作も流れの真ん中にいたが、あくまでも自分は将清の腰ぎんちゃくのような存在で、周りにもそう思われているだろうとは自分に言い聞かせていた。
ミドリとも何事もなかったかのように友達でいられたし、ただ、将清のことに関してはあれから口にすることはなかった。
だが夏休み前、将清が最新型のカワサキの大型バイクでキャンパスに現れた時は、羨ましいより滅茶苦茶優作は腹が立った。
「お前、それ、何で、すげえガイシャのってたじゃねーか!!」
「おばあちゃんちの庭の草むしりやったら、買ってくれた」
ふざけたことをぬかす将清を優作は張り倒してやりたかったのだが。
「夏休み、ツーリング、行こうぜ」
そんな言葉に優作は怒るに怒れなかった。
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