「お前、それで、やつの結婚式に招待とかされて、スピーチとかすんの? 大学から同じなんだから、当然オハチが回ってくるよな?」
しばらく元気はワイングラスを玩びながら、ゆっくり飲んでいたが、ボソリと言った。
「そりゃ……」
新しいワインをグラスに注ぐ優作の手元は、酔っていてちょっと心許ない。
「スピーチくらい、やんなきゃな。俺の時も、やってもらわなくちゃならないし」
優作は自分と元気のグラスにワインをとぽとぽと注いだ。
「これ、美味い。何だ、元気、グラス空けろよ。飲みが足りないんじゃないのか?」
ふらふらと手を延ばす優作を制して、「いい、俺が…」そう言いかけた元気は、じっと優作を見つめた。
「おい、優作…」
「え、何?」
「お前、何、泣いてるんだ?」
そう言われて、優作は自分でも驚いた。
「え、ウソ、俺、すんげー酔ってるのかな…」
慌てて手の甲で頬を拭うが、涙が溢れて止まらない。
「ええ…? 何で止まらないんだろ…」
ぽたぽたと涙が零れて膝を濡らす。
「お前が嘘をついてるからだ」
「何だって?」
優作は顔を上げた。
「いい加減、俺には、本当のこと言えよ」
元気はふらつく優作の手を掴んで迫る。
酔いは元気のきつい視線をさらに強く見せている。
優作は元気に手を取られたまま、床に座り込む。
「…あいつと…将清と俺、ただ友達やってただけじゃないんだ…」
優作は観念したように、まだ誰にも話したことのないことを語り始める。
「ずっと…大学時代から、俺たち、男なのにさ…二年の時、学祭の打ち上げのあと………それから卒業するまで…寝てたんだ…」
しばらく突発的な感情の昂りはなりを潜めていたようだったが、あの夜の将清はどこかいつもと違っていた。
「ちょっと将清、ヤバイかも」
そう感じていたのは優作だけではなかったようだ。
隣で腕組みしたミドリがボソリと言った。
学祭の打ち上げで、いつもの居酒屋に集ったのは最初三十人ほど。
同じ学部の有志で出した模擬店『K大名物えーべーやきそば』はこれ以上にない人だかりで、材料を二度追加しても足りず、結局二時前には閉店せざるを得なかった。
『えーべーやきそば』は英米文学専攻のOBから代々引き継がれてきたというか、一年生に課せられてきた学祭の名物で、今年は将清が仕切って将清や元気、ミドリが手際よく焼いていくやきそばは、比喩ではなく飛ぶように売れた。
優作や佐野、古田や芽衣ら、手際が良くない連中は、主に簡易テーブル席にやきそばやウーロン茶などを運ぶ係りに徹したのだが、こちらもてんてこ舞いで、終わった後は、みんなしばしその場でぐったりと死屍累々だった。
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