「お前、酔ってんな?」
怪訝な顔で将清は元気を見た。
「元気、まだ、そこにい…」
その時ちょうどドアを開けた優作は、元気の唇が将清に重なるのを見た途端、またドアを閉めようとして、すかさず将清に足を突っ込まれる。
将清は、すごい勢いで元気を離すと、ドアの向こうに無理やり身体をねじ込んだ。
「どうして元気と…俺は、俺はお前のことずっと好きだったのに…ずるいよ、お前…」
優作が泣きながら喚いた。
「優作、違う、俺は…」
情けない将清の声を聞くなり、バン! と廊下から元気はドアを閉めた。
「やってらんないね。ご近所迷惑って言葉を知らないのか、バカップルめ!! ミドリのヤツもいったい優作に何言ったんだ! けしかける方向性間違えやがったな!? 六年もやつらを迷走させやがって! たくどいつもこいつも! どうせ俺は狂言回しだよ」
元気は忌ま忌ましげに呟く。
「こんなおとぎ話な結末があっていいわけがない。いばら姫だって、王子と結婚してからがいばらの道だったんだからな」
エレベーターに乗り込んでからも、あほらしさが収まらない元気だった。
ドアが閉まった途端、二人には互いの存在以外消え失せた。
将清は涙目で訴える優作を迷わず掻き抱いた。
入社した途端、優作に友達に戻ろう宣言をされて以来、触れたくても触れられないジレンマが積もりに積もっていて、箍が外れたどころではなくどこかに取っ払ってしまった将清と、慣れない深酒のせいもあって涙がとまらない優作の中でずっと堰き止められていた将清への思いが一気に流れ出して、もう互いを吸収し合うしかなくなっていた。
唇を重ね、どれだけ抱きあっても飽き足りない。
身体を繋いでどこまでが自分なのかすらわからなくなるくらい、互いをどこまでも欲しがった。
将清が中で突き上げるたび、優作が上ずった悲鳴のような声をあげた。
鼓動が、血液のどくどく流れる音さえが共鳴した。
汗ばんだ肌が擦れ合い、湿った音がリアルに耳に届くことでさらに互いの熱を煽り、縺れ合った。
深く口づけて疲れ切った身体を摺り寄せたまま、荒い息をつきながら、尚も身体の奥には引き切らない熱が燻っている。
「俺は、さ、お前が好きだって言ってくれるの、待ってたんだ」
将清が唐突に言った。
「なん……だよ、それ」
明け方になってから二人で狭いバスルームでシャワーを浴び、使ってない方のベッドに潜り込んだのだが、優作は隣の乱れたベッドが目に入って、気になっていた。
「お前が好きだって俺が言うのは簡単だけど、何かにつけてお前、俺に引け目みたいなこと考えてたろ。俺は早いとこ、同じ土壌に立ってるんだってことをわかってほしかったんだ」
将清は優作の髪をもてあそびながら笑った。
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