「ああでも、俺、今夜が東京デビューっつうか、肩慣らしっつうか、名古屋とか大阪とかでライブやったことはあんだけど」
「そうなんだ」
「そうだ、佐野も来るって言ってたぞ。あいつ、ロック好きなんだって」
へえ、いかにもなおぼっちゃまで、マジメそうなのに。
「俺らは、次の次だから」
その時、元気の携帯が鳴って、「おう、優作と佐野が来てくれたんだけど、他に誰もきてくれねーから来いよ。ダッシュだぞ!」と元気は相手に念を押してから切った。
「そういや、お前、M市だって? お隣りさんじゃね? 俺、T市だから」
元気が意外なことを言う。
「え、マジ? 俺てっきり、東京人かと思ってた」
多少の近親感が湧いてくるというものだ。
「田舎もん同士、仲良くしてよん?」
ただ、そんなきれいな笑顔を向けられると、男でもドキリとしてしまう。
「あ、ここにいたのか」
相変わらずマイペースな様子でトイレの方からやってきたのは、シャツの上にジャケットを羽織り、チノパンにローファー、いつも通りの佐野だ。
「あ、優作くん、よかった、連れがいて。楽しみだね、元気のギター」
「あ、ああ」
そういえば、俺がひっくり返ったあの日、元気がやってきてギターを弾いたとか何とか、将清が言ってたな。
そんなにうまいのか?
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