そんなお前が好きだった1

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 ちらちらと白いものが空から落ちてきた。
 濃いねずみ色の空は青い空より何かずっと遠いものを心の中に感じさせる。
「……さらば友よ!」
 力のこもった生徒会長の声に騒然としていた面々が一瞬静まり返る。
 校舎を背景に、グラウンドの傍の道には送る者、送られる者に分かれ、全校生徒が集まって卒業式のクライマックスを迎えようとしていた。
「降ってきたな」
 和田響は、時代がかった惜別の語りのあと在校生の歌う送別歌を背中に聞きながら目をすがめて歩き出す。
 道端にまだ残る雪に目をやれば、春の遠さを感じてうんざりだ。
 大抵卒業と桜はセットで考えられがちだが、この辺りでは桜は四月の半ば以降、ゴールデンウイークまでずれ込むこともある。
 それでも、一年前まで過ごしていたベルリンの街の、夜の長い陰鬱な冬と比べればましか、と思う。
 高校から続く道をひたすら南へと歩くと、やがて江戸時代にでも迷い込んだかのような、木造の低い屋根の町並みが静かなたたずまいが続く。
 一階にはくすんだ紅色の出格子が並び、現代っ子が住むにはちと低すぎる板連子の二階が、張り出した大屋根の下に見える。
 見るからに文化財と思しき建造物だが、ここにも人は住み、町並みを壊さない形で観光客相手に土産物を売る店や造り酒屋として何代も続く家もある。
「しかし変わってないな…」
 まさかこの街に出戻り、しかも母校で教鞭をとることになろうとは、八年前の卒業式の日の自分には思いもよらぬことだった。
 二度と戻ってくるつもりはなかったのだが。
 一旦大き目の通りにぶつかるが、それを突っ切るとまた古い町並みが現れる。
 このまま家に戻っても折り合いの悪い父親と顔を合わすくらいが関の山だ。
 銀行の支店長を退職後、NPO団体の顧問だのどこぞの会社の取締役だのという役職についているらしいが、帰りが早かったりして居間で新聞を読んでいたりするのだ。
 観光客がちらほらそぞろ歩く間をぬって、響は白壁の土蔵を認めると、伽藍と書かれた看板の横のドアを開いて中に入った。
「いらっしゃい」

 


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