そんなお前が好きだった104

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 空はどんよりと今にも雨粒がこぼれてきそうな色をしていた。
「傘は予備あるから大丈夫」
 井原は笑顔でエンジンをかけた。
 車が駐車場を出る時、ちょうど職員玄関から出てきた荒川の顔がこちらを見た。
 荒川とはどうなったのか、気にはなっていたが、それを聞く勇気も響にはない。
 というより、俺には関係ないことだろう。
 自分のことも井原には話していないのだし。
 いずれにせよ、そこが線の引きどころなのかも知れない。
「井原先生、響さん、いらっしゃい!」
 ドアを開けると、今日は元気よく紀子が出迎えてくれた。
「ここんとこ会ってなかったね」
「うん、ちょっと旅行行ってたんだ、友達と京都」
 声をかけた響に、紀子は、はい、と小さな紙包みを響にくれた。
「お土産。こっちは井原センセ」
「え、俺にも?」
 カウンターに陣取った井原は喜んで、包みを開ける。
「お、落雁だ! とハンカチ!」
「これ、何?」
 井原の横で包みを開けた響は紀子に尋ねた。
「ハンカチとあぶらとり紙。きれいなお顔を保つためにはやっぱりこれ。元気とおそろよ」
「あ、りがとう」
 響は黙ってコーヒーをいれている元気を見た。
「ピアノ弾く時にもいいかも」
「それはいいかもね」
「ハンカチは俺とおそろだ!」
 井原はそんなことで喜んでいる。
 かぐわしい香りのコーヒーが鼻孔をくすぐると響は全身がほっとするような気がした。
「一日の仕事上がりに元気のコーヒーって、ほっとするよなあ」
 隣で井原が響が考えたようなことを口にした。


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