そんなお前が好きだった107

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 井原の発言に元気は考え込んだ。
「お前無茶なこと言うなよ」
 響は呆れたが、元気はうーんと唸ってから、「何とかなるかも」と言う。
「けどどっから誰が運ぶんだ?」
 率直な疑問を響は口にした。
「こないだみたいに、お前の持ってるキーボードでいいんじゃないか?」
「いや、やっぱ本物のピアノとは音が違いますって」
 響の提案も拒否って、井原は断固として言った。
「俺ちょっとつてがあるんで、そっちは任せて下さい。とりあえず、選曲ですよね。秀喜や江藤先生のリクエスト以外に、響さん、考えておいてください」
「え、俺?」
「もちろん。俺らは軽い系、響さんはホンモノ系」
「何だよ、それ」
 響は笑う。
「だって、二人、ここまでやっとたどり着いたんだから、幸せになってほしいじゃないですか」
 井原は笑顔で言った。
「それは、そうだな」
 それには響も素直にほほ笑んだ。
 井原たちが高校一年の時、江藤は二十六歳、明るくてチャーミングな江藤に憧れを抱く生徒は多かった。
 だが、秀喜は憧れを飛び越えて恋をした。
 学年の中でも少し大人びた秀喜が図書委員になったのがきっかけで、二人は近づいた。
 秀喜が江藤に告白したのを誰かが見ていて、あっという間に噂になった。
 先生と生徒、だけでもちょっとセンセーショナルだった上に、十歳差と言うのが取りざたされた。
 人と違うことをすると、奇異の目で見られるんだよな。
 特にこんな田舎だと。
 響は二年生だったが、二人の噂を耳にして、よくやるな、と秀喜をある意味尊敬の眼差しでみたものだ。
 卒業した響には結局二人がどうなったか真相はわからずじまいだったが、二人が本当に愛し合って結婚することになろうとは、思いもよらなかった。


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