そんなお前が好きだった109

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「さすが、響さん、感覚的! これどの絵と取り替えたらいいと思います? これ以上飾ると窮屈そうだし」
「そうだね、せっかくだから、メインに飾ったらどうかな、その二枚と取り替えてみたら」
 響が紀子と絵の飾りつけに行ったのを見計らって、井原は元気に、「何であんなこと言ったんだよ」と突っかかる。
「お前が秀喜の十年愛を羨ましそうに話してるからさ。なんだ、着々とお前も結婚準備体勢に入ってるんだ? 荒川ってあの美人先生だろ? だから引っ越しか」
 元気はフンっと鼻で笑いながらしれっと言った。
「なわけないだろ! 大いなる勘違いだ!」
 井原は拳でカウンターを叩く。
「だからカウンター壊すなって」
 井原は後ろで紀子と絵の位置がどうとか話している響をチラリと見た。
「あああ」
 深くため息をついて、井原はぼそぼそと続けた。
「一度振られてるんだよ、今度こそと思って外堀から埋めようと……」
「そんな悠長なことやってると、横からかっさらわれるぞ」
 元気に脅された井原はウっと言葉に詰まる。
「くっそ! 冗談じゃない」
 また井原は拳でカウンターをドンと叩く。
「だから、カウンター壊すな」
 そんな井原の葛藤も知らぬげに響は壁に絵を飾るのに専念している。
「あ、もちょい右あげて、あ、そうそう!」
 紀子の指示に響は額を少し上げてフックを留めた。
「あ、いいじゃん、これ、俺も欲しいな」
 紀子と並んでベネチアの絵を眺めながら、響が言った。
「ちょうど浸水してる頃に行ったことがあって、でも観光客も街の人も平気で歩いてるし、俺はひざ下まで水に浸かっちまって、早々にホテルに逃げたよ」
「他にも行ったんでしょ?」
「うん、ヨーロッパ中ってくらい、あちこち演奏旅行した。冬のノルウェーとかロシアの寒さって半端なかったな」
「わあ、あたしも行きたーい」


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