そんなお前が好きだった111

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 響の家の前まで来ると、井原は車を停めた。
「じゃあ、お疲れ様」
 シートベルトを外した響が降りようとドアに手をかけた途端、井原がまた響の腕を掴んだ。
「井原?」
「………さっきの………違いますから」
 井原は固い声で言った。
「え? 違うって何が?」
「荒川先生と俺は付き合ってなんかいないんで」
 井原は吐き出すように言った。
「え…………あ、そう、なんだ」
 響は井原を見つめた。
 こいつらしくもなく何をそんな苦しそうな顔をしているんだ?
「響さん、告られたって、ほんとですか?」
「へ?」
 響の方に顔を向けて、まじまじと見据える井原に、響はポケッとした顔になった。
「俺が? ああ、ひょっとして、寛斗のヤツのことか?」
「寛斗って、サッカー部兼ピアノ担当のあの生意気なガキのことですか?」
 またらしくもない言い方で井原は怒ったように言った。
「あんなの、教師をからかって面白がってるだけだろ。誰が言ったんだ? そんなこと」
「いや、面白がってるだけとは限りませんよ? いや、いや、そんなことはどうでもいいんだ」
「どうかしたのか? 井原、何かお前変だぞ?」
 響は笑った。
 途端、井原は響の両肩をガシッと掴んだ。
「ずっと、響さんが好きだった。付き合ってください、俺と」
「おい、井原……お前まで人のことからかって……」
 響は笑い流そうとして、井原の顔が強張っているのに気づいた。
「いい年して、からかうとかないから」
 時間が止まったようなとはこういうことかなどと響は他人事のように思った。
 視線を外すこともできず、井原と睨み合うように動くこともできないでいた。
 言うべき言葉もみつからない。
「なんか、もっと違うタイミングで言うつもりだったんだけど………」
 井原はようやく手を離した。
「返事はすぐじゃなくてもいい。でも、マジなんで」
 響はまだ身動きできずにいた。
 頭も働いていない。
 井原の言葉をきちんと理解できなかった。
「ゴメン、俺、下手するとこのまま響さんかっさらってどっか逃げてしまいそうなんで、すみません、とりあえず降りてください」
 言われて響はようやくハッとして、慌ててドアを開けた。
「じゃあ、また明日」
 響がドアを閉めると、早口で言って井原は車を出した。
 車が見えなくなってもしばらく、響は門の前でそのまま佇んでいた。


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