そんなお前が好きだった126

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 笑うのだが涙がぽろぽろ零れるのを拭いもせずまた酒をマグカップに注いでいる。
 またそれをゴクゴク飲み干した途端、ずるずると響の身体が揺れて元気の膝の上に倒れ込んだ。
「響さん………」
 どうやら潰れたらしいと、元気は膝の上で眠っている響をどうしたものかと、思案にくれた。
 ただ響の少ない言葉から、元気はおおよその内容をつかんだ。
 つまり井原に告られてまだ返事をしていなかった響に、荒川が男同士云々を持ち出して、井原に近づくなと響に言いがかりをつけたわけだ。
 それを真に受けて響は井原に断ったと。
「近づくなって、それおかしいだろ? 井原と荒川さんつきあってるわけじゃないんだから」
 男同士で、とか、元気には似たような悪態をつかれた覚えがあったが、「あれは俺が言われてもしゃあない状況だった」わけで、響のような素直な人間に言うべきことじゃないだろ、と元気は段々、腹が立ってきた。
「ってか、そんなことをこの人に言う権利ないだろ! 井原が自分を見ないからって、自意識過剰か! れっきとした脅しだ」
 荒川に言われたからといって、井原に断ることもないと思うのだが、響としては、いろいろ立場とか噂とか、仕事とか、考えてしまって、井原のために断ることを選んだと。
 そんなところだろう。
 井原が前に一度振られたと言っていたが、それもまた、響にすれば同じ心理状態だったに違いない。
 井原を見つめる響の眼差しはあんなに、好きだと語っているのに。
 だから自分にウソつくから、こんなに泣いてんだろ。
 この人、結構何重にも本音をクールな顔で隠してるけど、何か突発的なことが起きると結局このテイタラク。
 それに、なんで俺。
 まあ、相手が男だから、って思ったんだろうけど、違うだろ。
 井原じゃないのか、呼び出すのは。
 大体、井原も井原だ、断られてすごすご引き下がるような恋なら、とっととやめちまえ!


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