そんなお前が好きだった18

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 今どうしているのか、と時々井原のことを思い出す時、胸の奥に鈍く痛みが走る。
 元気の話だとアメリカにいるらしい。
 どこにいても大らかにあいつらしく生きているのだろう。
 恋人とかですらなかったのだ、俺のことなどとっくに忘れているだろうし、人を惹きつける要素に事欠かないあいつのことだ、きっと隣には誰か井原に似合いの人がいるに違いない。
 母校の教壇に立って、センチメンタルな思いに浸っている自分を響は自嘲する。
 だが今の自分にとってはそれもいいか、と思う。
 風が少しだけ温かくなってきた。
 早く春になればいいのに。

 

「あーーっ、やっぱり! さっき大きな音がしたから何かと思ったら、これどうすんのよ!」
 そこに二人の一年生を連れてやってきたのは音楽部部長の瀬戸川琴美だった。
 寛斗と同じクラスで、クラス委員もしている快活な少女だ。
 音楽部員も三年生が部活から退いてから四人というさみしい人数となっていた。
 琴美はこのままだと消滅してしまいそうな音楽部を何とか存続させたいとあれこれ手を尽くしていた。
 そこへ一人だけしかいない一年生が、入ろうか迷っている生徒がいると琴美に相談してきたので早速会って連れてきたというわけだ。
「しゃあないだろ、ボールが飛んでっちまったんだからよ」
「飛んでったんじゃなくて、あんたが蹴飛ばしたんでしょ!」
 わるびれもせず口にした寛斗に、琴美が食って掛かる。
「三月なんか吹き曝しで授業なんかできないわよ!」
「わーかったってお前ら、俺から先生に言って、修理してもらうから。って誰に言えばいいんだ?」
 口を挟んだものの、響ははたと眉を顰める。
 井原がガラスを割った時はどうしたんだろう、と考えてみたが、井原のこと以外全く思い出せない。
「事務の脇田さん?」
 寛斗が言った。
「サッカー部のしでかしたことなんだから、西川先生にまず報告して西川先生に手配してもらえばいいでしょ? キョーセンセが出てくことないわよ」
 


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