そんなお前が好きだった19

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 琴美の言葉で、へいへい、と不承不承寛斗は教室を出て行こうとした。
「ちょっとまってよ! 修理の前に、この吹き曝しを何とかしてよね!」
「copy that!」
 敬礼のマネをした寛斗はサッカー部員を引き連れて音楽室を出て行った。
「ふざけたやつ!」
 琴美は言い放ったが、ここ数カ月、音楽の時間だけでもこの二人のやり取りを見ていた響は、琴美が寛斗のことが好きらしいと感じていた。
 付き合ってはいないようだが、青春の一こまを傍から見ている立場の響は、微笑ましくも羨ましいような思いに駆られる。
 クールな教師でいようと思いつつ、タイムスリップでもしたかのようにどこか生徒たちと同じ目線で見てしまう自分に呆れてもいた。
「しょうがない、カーテンだけでもひいておいて、準備室の方で話しようか」
 響は割れた窓のあたりまでカーテンを引いた。
 音楽室に隣り合う準備室のドアを開けると、楽器特有の匂いがした。
 真ん中に置いてあるテーブルに折り畳みの椅子を持って来て、琴美は先ほどから少し緊張気味の一年生女子二人を座らせた。
「和田です。待たせて悪い。あんなアホなハプニング滅多にないから」
 響は一年生の緊張をほぐそうと、軽口で言った。
「あの、一年五組の志田詠美です」
 天使の輪がきれいなストレートの髪を揺らして、少女は言った。
「志田さんは、ヴァイオリンやってるんですって」
 琴美が志田を紹介した。
「へえ、すごい。俺、弦楽器やれる人って尊敬する」
 響が感心したように言ったので、志田は恥ずかし気に笑った。
「すごくなんかないです。先生こそ、ロンティボーで優勝されたような方がどうしてこんなとこの教師とかやってるんですか?」

 


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