そんなお前が好きだった2

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 カウンターの中の青年は、響を見るとにっこりと笑いかけた。
「また雪だ。三月だぞ」
 響はコートを脱ぎ、カウンターの真ん中の椅子に陣取った。
「卒業式に晴れたことなんか滅多にないですよ」
 後ろで結わえた髪はそれこそシャンプーのCMに出てもおかしくないほど艶やかで、しかもきれいな笑顔は相手を和ませる。
 エプロン姿の青年はその身長がなければ一見女性と見間違えそうである。
「カフェオレ。ったく、このクソ寒いのに、あんなとこで長いこと立ってられるかって」
 さすがにこの寒さのせいか、店内は隅のテーブルにカップルらしき観光客が一組すわっているだけだ。
 コートのポケットに突っ込んでいたにもかかわらず、指先まですっかり冷たくなっている両手をこすり合わせながら、響は眉間に皺をよせる。
「とっとと退散、ですか」
「いんだよ、どうせ、俺なんか非常勤講師なんだから」
「でも、俺、好きだったなー、実際の卒業式よりあの儀式の方が厳粛って気がして」
「あんな時代がかった儀式が? 二〇世紀に入ってもうずいぶん経ってるってのに。だいたい元気は見た目より頑丈だもんな」
「響さんがひ弱すぎるんですよ」
 岡本元気はこの伽藍のマスターだ。
 高校の一年後輩になる。
 もっとも在学当時はこんな親しげな口を聞く間柄ではなかった。
 父親の急逝で東京から戻り、いきなり父親の店を継いだという。
 何となく自分と似たルートを辿っている気がして、何となく話すようになった。
「手が冷たくなるから、やなんだよ」
 響が眉を顰めて言う。
「手袋しなさいって。ピアニストの命でしょ」

 


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