そんなお前が好きだった6

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「ウソつけ。ほんとはGENKIのメンバーだったんだろ? ロックグループの。暮れにこの店、GENKIのライブハウスになってたんだって? 東から聞いたよ。そんなメジャーな仲間がいて、何でこんな田舎街に戻ってくるんだよ」
 ついイラついた言葉が出てしまう。
「俺は、生涯、この店が城ですよ。響さんこそ、いい加減講師なんかやめて、中央に出て行ったらいいのに。響さんのピアノを待ってる人たちのためにも」
「んなもん、いるか」
「またまた、ロン・ティボー国際コンクールで優勝して、ショパンコンクール優勝候補だったくせに。指だって怪我なんかしてないんだし」
「ロン・ティボーなんか業界の連中しか知らないし、神代の昔の話だって」
 一時、響の優勝は日本でも話題にはなった。
 だが、その後ショパンコンクールに出場する予定だったものの、階段から落ちて大腿骨を骨折し、出場はお流れになった。
 どこでか話が歪曲されて、指を怪我してもう弾けなくなったなどという噂が流れた。
 それから、響はベルリンに渡り、地味に演奏活動をしていたが、もうコンクールに出ようとか、そういう野望は空の彼方に消え去った。
 だがベルリンでいい加減ウツになりそうな気がして、祖父の葬儀を理由に急遽この田舎に戻ってきて以来、元々ピアノの練習のためにずっと使っていた離れに向こうから送ったピアノを入れてピアノ教室を始めた。
 小さい街のことだ、ちょっと変わり者がいると、噂は街中を一人歩きしてしまう。
 海外から戻ってきた和田家の息子は髪を振り乱してピアノを弾きまくるかと思えば、真夜中徘徊するキメラだ云々。
「キメラってな………」
 溜息も出ようというものだ。
「そういえば髪、切っちゃったんですね」
 以前は肩くらいまで伸ばし放題、しかも元気のようにCMに出ていそうなサラリとしたきれいな髪ではなく、あちこち飛び跳ねていて結わえていてもまとまりにくい。
「高校生なんかの前にあんな頭で行ったら、格好の笑いネタにされたんだよ」
「柔らかい巻毛で、いいと思うけど。俺も長いですよ?」

 


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