そんなお前が好きだった76

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 井原がダイレクトに不動産屋に聞いた。
「いや、まさか。要は駅からかなり遠いし、周りが何もない、スーパーも車で何分という事情からですよ」
「ちょっとした庭もあるし、ここならそれこそ結婚しても住めるんじゃね?」
 響が言うと、井原は少し考え込むような顔をした。
「まさしく、ファミリーでももちろんOKです。リビング十六畳、洋室が三つ、ロフトつきです」
 不動産屋はまだ築五年ほどだと説明した。
「ちなみにペット可です?」
「たしかOKですよ。周りに何もないから、ワンちゃんが鳴いてもOK」
 しきりとOKを繰り返す不動産屋に、井原が、「じゃあ、ここにします」とあっさり言った。
「じゃあランチ行きましょう! お礼に奢ります!」
 不動産屋に戻り、契約金を支払い、大家に簡易ガレージのことを確認してもらい、OKが出たところで、井原の提案に響も、「そういえば、腹減った」と頷いた。
「やっぱ土曜日は混んでるな」
 車をパーキングに停め、観光客がそぞろ歩く街並みをたったか歩く井原に響はついて歩く。
「ここ、バーガーショップ何ですけど地元の牛肉使ってて、旨いって口コミ見て一度来たかったんですよ」
 元気の店と同じで外観は古い作りだが、店内はアメリカナイズされ、流れるのはどうやらAFNインターネットラジオからの音楽だ。
「何だよ、アメリカが懐かしいわけ?」
「そういうんでもないんですけどね、なんか慣れてしまってて、まあそのうちこの国のいろいろにも慣れますよ。響さんはそういうのない?」
「うーん、まあ、向こうのやたら目ったら広い空間に慣れてたから、こっちに戻ってウサギ小屋的な狭さに最初は圧迫感みたいなものがあったけど、そろそろ落ち着いてきたよ」
「だって、あの離れ、結構天井高いし、広いでしょう」
「あれな。祖父も昔ロンドンに留学してたことがあったみたいで、うちを建て直す時にちょっと離れを向こうっぽくしたとか言ってた」
 

 


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