そんなお前が好きだった78

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 井原は道中、ニューヘイブンの街での生活やユニークな大学教授の話、ジャズ仲間とのライブの話などをかいつまんで話してくれた。
 井原のことだ、どこに行っても楽しく賑やかに過ごしていたのだろう。
 特に同じ研究室にいたカーク准教授とオリビアとキースの話題がよく出てきたが、付き合っていた彼女の話はなかなか話題に上らなかった。
 もしかして別れたのか、それとも遠恋なのかわからないが、あれだけ荒川先生にアプローチをかけられて拒否っているらしいのには、おそらくそのあたりの事情があるのだろう。
 井原の話を聞いていると、いかにも充実した日々を送っていただろうことは明白で、自分ももしその場にいられたらどんなに楽しかっただろうと考えて、バカげた思いを響は自嘲した。
 もし井原との約束通り、響の卒業した三月に会っていたとしたら何か違っていたろうか。
 だが、井原はアメリカへ響はオーストリアへ、お互い目指すところは別々の道だったのだ。
 だが、井原ともしたまに会えるような状況だったら、あんな嫌な人間たちと付き合ったりしなかったかも知れないが。
 いや、もっとおかしなことになっていたかも知れないし、いまさら考えるべくもないことだ。
「そういや、新任の先生たちで反省会とかもしてるんだって? みんな真面目じゃないか」
井原と荒川先生、田中先生と柿下先生の四人で今夜、反省会を兼ねた飲み会だってさ。
 東に聞いたのは昨日の昼のことだ。
 井原が何をしようと何の関係もないことだし、へえ、とだけ聞き流していたのだが、井原が荒川らと飲み会、というところに実は響は少し引っ掛かっていた。
 つい口にしてしまったのは、引っ掛かりがどうしても消えてくれなかったからだ。
「ああ、夕べね。みんな飲みたいだけっていうか、やっぱほら、新任だし、生徒や職員たちの話をわーって言いたいっての、あるじゃないですか」
「まあ、そうだな」
 それだけ? 荒川とはどうなんだ?
 気になってもそれを軽く聞く術が響にはない。
 荒川先生と井原がどうなろうと、関係ないことなのだし。
「そうだ、温泉もだけど、夏にアルプスの山頂で星の観察会とかあるらしいんで、一緒に行きましょうよ」
「へえ、面白そうだな」

 


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