そんなお前が好きだった79

back  next  top  Novels


 井原がそうやって誘ってくれるうちは、いいか、と響は思う。
 山から下りてくるとやはり気温が違う。
 降りるのはあっという間という感じで、車が街中に入り、響の家に近づくと、響は妙な寂寥感に襲われた。
「引っ越し要員、必要なら声かけろよ」
 とりあえずそれだけは言った。
 じゃあ、と車を降りようとした響に、「コーヒー飲みたくなったな、締めに元気んとこ行きません?」と井原が提案した。
「おう、いいけど」
 響が携帯を見ると五時前だった。
「響さん、腕時計とかしないんだ?」
「ああ、ピアノ弾く時邪魔だし、結局持たなくなった。携帯あるし」
「なるほど」
「車、門の中に入れとけば? 元気の店、ここからなら近いし」
「あ、そうさせていただくとありがたいです」
 響が門を開けると、井原は車をバックさせた。
 祖父がまだ車を運転していた時、車二台分のガレージを作ったので、今は父親のセダンの横に響のヴィッツが入っているが、ちょうど一台分くらいの駐車スペースは玄関の前にあり、たまにピアノのレッスンに来る生徒の親が停めている。
 二人はのんびり歩いて元気の店に向かった。
「で、部屋決まったのか?」
 カウンターに陣取った井原と響に香り良いコーヒーを差し出しながら、元気が言った。
「部屋ってより、一軒家だぞ」
「平屋だけど、家賃六万、周り山と畑で、騒音クレームは来ない、駐車スペースありのペット可だ」
 響の答えに井原が情報を追加した。
「おお、引っ越し飲み、いつにする?」
 元気は早々と飲み会の話になる。
「ってかお前、その前に当然手伝いに来るよな?」
 井原が訂正したところで、ドアが開いてぬぼっとでかい男が入ってきた。

 


back  next  top  Novels

にほんブログ村 BL・GL・TLブログ BL小説へ