そんなお前が好きだった81

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 井原が元気に言いかけた時、響の携帯が鳴った。
「はい」
 響が畏まった声を出した。
「え? 誰ですって? ………わかりました。今、帰ります」
 携帯を切った響の顔が強張っているのに気づいて、井原が「どうした?」と聞いた。
「それが………。知り合いが家に来たって親父から。ちょっと歓迎したくないやつ。俺、帰るわ」
「え、あ、ちょ、待って、俺も」
 井原はコーヒー代をカウンターに置くと、慌てて響のあとを追った。
 足早に家に向かう響に追いついた井原は、響の苛立たし気な顔を見下ろした。
「ひょっとして、こないだ電話してきたって人?」
「ああ」
 あいつ、まさか本当に来るなんて。
 父親から外人がやってきてお前に用だとか言っているという電話だった。
 クラウスと名乗っていると聞いたときは頭に血が上った。
 しかも家までつきとめるとか、いったいどうやって……。
 響はクラウスのことなど井原には知られたくなかったのだが、車を家の前に置いているから帰れとも言えない。
 家に近づくと、門の中から長身の男が出てきて、響を認めると、「ヒビキ!」と呼んだ。
「何しに来たんだ? 俺は会いたくないと言ったはずだ」
 開口一番、語気は荒めだがトーンを抑えて響は言った。
 ドイツ語はあまり得意ではなかったが、それでも雰囲気で井原は響の怒りを感じた。
「俺は響を愛しているんだ! 妻とは別れる! ほんとだ」
 日本語だったら隣近所迷惑だろう言葉を、クラウスは口にした。
 既にすっかり冷めた響にしてみれば、そんな言葉は陳腐でしかなかった。
 金髪碧眼、イケメンの代表のような男は仕立てのいいスーツを身に纏い、セレブ感もある。
 が、多少俺の方が背は勝っている。
 そんなことを心の中で呟いた井原は、思わずドイツ人らしき男を睨み付けた。

 


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