そんなお前が好きだった85

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 元気は仕方なく、ドアプレートをCLOSEDにしてから、カウンターに入った。
「どうしたんだよ? 車じゃなかったのか?」
「家に置いてきた」
 珍しく顔が曇りがちな井原を、元気はしばし見つめた。
「何を飲むんだ?」
 井原はカウンターの中の戸棚に並ぶボトルを眺めてから、「ジャックダニエルズ、ロックで」と言うと、頬杖をついた。
「だから、何がどうしたって?」
 井原は元気が差し出したグラスの液体を一気に空けた。
「お前、陽気なだけのとりえのお前から陽キャを取ったら何も残らねえぞ」
 からかい半分に言うと元気は腕組みをする。
「響さん………」
「はあ、やっぱそれか」
 おおよそ検討がついていたらしい元気はつい口にした。
「なあ、あの人、向こうで付き合ってたとかそういう話、聞いてるか?」
「響さんがそんなこと俺に話すと思うか?」
「だよな……」
 井原は大きな溜息をついた。
「響さんを訪ねてきた金髪碧眼の色男が!」
「はあ?」
 脈絡もなく話が飛んだ井原の顔を、元気はまじまじと見た。
「クラウスとか言いやがって、響さんはオーケストラで一緒にやったことがあるとかって」
「そら、いくらでもいるだろう、響さん、あえて自分を過小評価したいみたいだが、あの人ロンティボーで優勝してるんだし」
「指揮者とかって」

 


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