そんなお前が好きだった87

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 旬の素材を活かした料理と美味い酒がメインではあるが、頼めば家庭料理なども作ってくれるのでそっち目当てで通う常連も多い。
「あれ、井原さん?」
 豪はもう店に来ていて、元気の連れてきた井原に気づいた。
 店主は気を利かせて三人を座敷の個室に案内してくれた。
 春とはいえ夜になるとまだ肌寒い日もあり、その夜も割と冷え込んだので、部屋は暖房が少しきいている。
「井原さん、もうできあがってるんすか?」
 豪が聞いたが、少し赤ら顔の井原は、「元気がケチ臭くて、二杯にしか飲ませてくれないしさ」などと言って笑う。
「店閉めようとしたら飲ませろとか言って来てさ」
「何かあったのか?」
「うーん、まあ、何か、ちょっとあったみたいだな」
 元気は煮え切らない言い方をした。
「ドイツ語の問題なんだ!」
 すると井原はまた声を張り上げた。
「ドイツ語? 井原さんしゃべれるんすか?」
 豪は向かいの元気の横に座った井原に聞いた。
「何で、俺はドイツ語をやらなかったんだって話!」
「は?」
 豪は元気を見たが、元気は首を横に振った。
「支離滅裂」
 元気は店長お任せの料理ととりあえず日本酒を頼むと、テーブルに頬杖をついてぼんやりしている隣の井原を見た。
「響さんは何か隠してる」
 井原はまた唐突に口にする。
「響さんがどうかしたんですか?」
「おい、お前、響さん、響さんて気安そうに! どういう了見だ?」
 何気なく聞いた豪に、井原が突っかかる。
「いや別にどういう了見も何も………」

 


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