そんなお前が好きだった88

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 意味が分からず豪は元気に救いを求めたが、元気は、「さあ」というばかりだ。
 料理や酒が運ばれると、元気がさり気に高校時代の話に切り替えたので、井原も少し機嫌を戻したらしく、ひとしきり昔話になって饒舌になった。
「え、江藤先生、結婚すんの?」
 井原は気になる名前を耳にして、元気に聞き返した。
 江藤先生とは同高出身で母校の司書教諭だが、K大大学院まで行った才媛で、気さくな人柄が生徒受けがいいが、長い黒髪をいつも後ろできっちり束ねている、真面目な教師だ。
 井原や元気が卒業する頃には二十八歳、独身だった。
「結婚っていうか、再婚?」
「え、再婚って、江藤先生、『丸一』の秀喜と結婚して別れたってこと?」
 井原がそう聞くのも仕方がないかもしれない。
 何せ、一時、江藤先生と『丸一』の秀喜が付き合っていると噂になっていた。
 『丸一』の秀喜とは、井原や元気の同級生であり、年に数回のバンド、昇り龍のドラムスで、実家は老舗旅館でその跡取り息子だが、三年の時、江藤先生に告って振られたものの、何度目かのトライでOKをもらった云々がまことしやかに広まって、江藤は校長に呼び出されて真相を聞かれたらしい。
「いや、大学行ってから秀喜と江藤先生、公にも付き合ったんだが、結局秀喜の親の反対もあって、江藤先生が見合いで結婚してから、秀喜も大学卒業してこっち戻ってきてから親の進める人と結婚したんだ」
 元気の説明に、井原は少し落胆した。
「そっか、現実ってのはやっぱそううまくはいかないよな。俺ら、二人がこっそり付き合っているの応援してたのにな。ん? でも江藤先生が結婚て?」
「いや、それが、江藤先生、流産したのが原因で離婚したんだよ、一年ちょっとで」

 


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