そんなお前が好きだった96

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 わかってはいるが、もう少しこのままでいたい。
 井原と一緒の空間でもう少しこのままで。
 そんな響の想いをよそに、その噂を聞いたのは、二年生の一クラスの授業が終わってすぐだった。
「午後物理か。眠くなりそう」
「ガリレオセンセの授業なら午後でもOK」
「だよね、授業わかんなくても、イケメン見てれば時間が過ぎる」
 ここのところ井原の噂は女子の間では学年を超えてよく耳にする。
 そこへ男子の一人が割り込んだ。
 女子が井原の話題ばかりで面白くないのでちょっとしたヤキモチといったところだろう。
「井原と荒川、付き合ってるってよ」
「何よそれ! 市村またウソばっか」
 女子たちの猛抗議にあいながらも市村というその生徒はフンと鼻で笑う。
「斎藤のやつが夕べ見たんだってよ、塾の帰り、二人でバーから出てきてイチャコラ歩いてるの」
「ほんとにガリレオ先生?」
「うう、ほんとだったらショックぅ!」
「荒川先生、すんごく積極的だったもんね」
 女子たちの悲痛な声が高くなった。
「二人でタクシーに乗って行っちゃいましたとさ」
 きゃあっとさらに悲鳴のような声がハモる。
 黒板の文字を消す手が止まっていたことに気づくと、板書を消す響の手が荒くなった。
 遅かれ早かれ、そうなることはわかっていたさ。
 黒板消しを置くと、響は手をぱんぱんと払い、準備室に入った。
 考えごとをしていたので、あっという間にガツガツと弁当を平らげた響は弁当のからをビニール袋に突っ込みゴミ箱に放ると、音楽室を出た。
 そのまま音楽室にいると、また井原がひょっこり顔を出して、夕べは荒川先生とどうしたこうした自慢たらたら話し始めるかもしれない。


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