そんなお前が好きだった97

back  next  top  Novels


 そのまま音楽室にいると、また井原がひょっこり顔を出して、夕べは荒川先生とどうしたこうした自慢たらたら話し始めるかもしれない。
 そういう無邪気なところは嫌いではないが、井原の恋バナとなれば話は別だ。
 正直、聞きたい話題ではない。
 響はどこへ行くともなく廊下を歩いていたが、つきあたりに図書室の文字を見つけて、ドアを開けた。
 中は昼休みの生徒たちがあちこちにいて、少しさざめいていた。
 響は音楽の蔵書のある奥まった棚へと歩いて行った。
 この学校は百年ほどの歴史があるだけあって、今は手に入らないような古い文献がきちんとおさめられている。
 ついでだからイタリア歌曲の文献でも探そうとしばらくそこに留まっていると、近づいてくる足音がした。
「あら、和田くん、何だか久しぶりね」
 振り返ると司書教諭の江藤が笑顔で立っていた。
「江藤先生」
「そういえば、昔はしょっちゅう、図書室に通って、何かしら読んでいたわね、和田くん」
 高校の頃は、親しい友人もいない響は、授業以外の時間を持て余しそうな時は、大抵音楽室か図書館で過ごしていた。
「どう? 今年の新一年生は?」
「みんな可愛いですよ。でも、どうかな、俺の在学時より今の子の方が大人な感じ」
「フフ、そうね、私の頃なんかもっと子供だった気がするわ。でも、和田くんてほんとにあの頃のままね。ぱっと見は」
「それ、音楽部の生徒にも言われましたよ。もう十年以上経っているのに、俺ってそんなガキに見えます?」
 江藤はするところころと笑う。
「成長していないって意味じゃなくて、変わらないっていいことじゃない? もちろん、中身はすごいってことはわかってるわよ。ロンティボーで優勝した天才ピアニストですもの」


back  next  top  Novels

にほんブログ村 BL・GL・TLブログ BL小説へ