そんなお前が好きだった99

back  next  top  Novels


 放課後の音楽部の練習に井原は顔を見せなかった。
 何となく構えていた響は肩透かしをくった気もしたが、こなければ余計な話も聞かなくていい。
 それよりもコンクールに向けて真剣な生徒たちを見ていれば、物思いをしている暇はなかった。
 特に瀬戸川はここ数カ月で実力がぐんと伸びた気がする。
 このままいけば、音大も合格圏内ではないかとも思う。
 医学部志望というのが残念なくらいだ。
 志田も曲を深く読み込んで、持ち前の技巧のレベルも上げてきている。
 あとは榎のフルートと寛斗のピアノだが、彼らに過剰な期待をすることはできないが、瀬戸川や志田に引っ張られるように、それぞれに力をつけてきているのがわかる。
 寛斗もかなり力が入っている。
 力が入り過ぎて瀬戸川に、「寛斗、力入り過ぎ」と注意を受けるくらいだ。
 響は気になるところだけ、声をかけるが、基本は生徒たちに任せている。
 新一年生も休むことなくやってきて、演奏が終わると、それぞれ意見の意見交換が始まった。
 今、かなりいい感じだな、と全体を見ながら響は一人頷いた。
「何か、すげえいいな」
 いきなり頭の上から降ってきた声に、響はハッと我に返った。
「こないだ、部活紹介でやった時より格段よくなってない?」
 来ないだろうと思った井原が同じようなことを言った。
「ここんとこ瀬戸川がぐんと力つけてきたから、瀬戸川と志田に引っ張られて榎や寛斗もよくなってる」
「気合入ってんなあ、素人耳にも瀬戸川、医学部なんて惜しい気がする」
「全国模試上位の瀬戸川に、医学部やめて音大にとはまず言えないが」
「え、やっぱそんなレベル?」
「ここだけの話、うちの大学なら受かるかも」
「もったいねぇ」
「あくまでも、かも、だ。本人にその意思がなければ問題外。それに音楽って食ってけるかどうかわからない浮き草稼業だし、医学部行っても趣味で続けてくれればいんじゃないか?」
 色々考えていた割には、井原としゃべるといつもの通りのやり取りになってしまう。
「っと、いけね、今日は部活、俺が必要なことがあったんだ。じゃ、またくるわ」
 慌てだした井原に、「わざわざこっち覗く前に、天文部行けよ!」と響は言った。
 ハハハと笑ってて井原は音楽室を出て行った。


back  next  top  Novels

にほんブログ村 BL・GL・TLブログ BL小説へ