雪の街8

back next  top  Novels


 ふふんと笑い、朔也はグラスに手をのばす。
 久しぶりの郷里である。
 じいちゃんの墓にも行ってこなけりゃな。
 郷里というといささか語弊があるかもしれない。
 朔也がT市で暮したのは中学と高校の六年間だからだ。
 しかし、ロシアに帰って以来音沙汰もない父親と一緒に暮らした幼い頃のことはうろ覚えだし、雑誌社で夜遅くまで働く母と二人の生活も、決して朔也にとって幸せな記憶ではない。
 人と違う容姿のせいで小学校ではよくいじめられ、そのうちやり返すようになると今度は乱暴な子供とみなされ、傷つき、深い孤独感を味わった。
 そんな朔也が心の充足を得ることができたのは、祖父との六年間を通してである。
 朔也が中学に上がる時、彼を心配した母親は田舎に住む父親に彼を預けたのだ。
 元教師で頑固で偏屈なところもある祖父は厳しかったが、表裏なく正面から見据える祖父の凛とした態度に、次第に捻くれた朔也の心もうちとけた。
 祖父が亡くなり、母は家も手放したので、帰る家があるわけではないのだが、あの町で過した時間があるからこそ今の自分があるのだと、朔也は思う。
 目を閉じると、藍崎橋の下を流れる川面に降り落ちる雪の情景が浮かぶ。
 真っ白に染まった喜多山を見ながら高校への道を歩いていた。
 つい昨日のことのように朔也の中では色褪せることがない。
 雪まみれになりながら、サッカー部の連中はグラウンドでボールを蹴っていた。
 そう、ここにいる清隆を筆頭に暴れまくっていたバカなやつら。
「なあ、朔也」
「なんだ」
「どうせなら、スキーなんかより、H高のグラウンド行ってサッカーしねぇ?」
 パチ、と朔也は目をあける。
「冬休みだしよ、怪我もしねぇぞ、サッカーなら」
 途端、朔也はゲラゲラ笑い出す。
「何だよ、人がせっかくとっときの提案してんのによ!」
「雪が積もってたらな」
 ひとしきり笑うと、朔也はそう答えた。

 


back next  top  Novels

にほんブログ村 BL・GL・TLブログ BL小説へ

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です