雪の街9

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 クリスマスイブの朝はよく晴れていた。
 が、ドアを開けた途端、強い風が吹き込んできて、朔也は思わず身を竦ませる。
「くっそー、……この分だと、あっちは大雪だな」
 ロングコートにマフラーをぐるぐる巻きにし、手袋に雪用のトレッキングシューズと完全防備だ。
 名古屋で在来線に乗り換えてから、弁当を平らげたあとは朝早く起きた分、寝ていくことにする。
 毛糸の帽子とメガネ、それだけで割りと人間のイメージは変わるものらしい。
 窓にもたれてガーガー寝ているのが、人気俳優だなどと誰も思わない。
 カメラの前に立つと仕事の緊張感からかタダモノじゃないオーラ、みたいなものが出ているのだそうだ。
 そう言ったのは西本だ。
 俳優川口朔也とただの人川口朔也と両方の朔也を知っている西本は、スイッチを押したように切り替わる、と言う。
 案外、隠れるなら人ごみの方が見つかりにくい、というものだ。
 タダモノじゃない俳優川口朔也から解き放たれると、朔也はひどく無防備な若者に戻る。
 温泉街を過ぎた頃から、窓際から冷んやりした空気が流れてきて、朔也は目を開けた。
 列車の外は横殴りの雪が降っている。
「こういう時だけ予報、大当たりじゃねーかよ」
 頬杖をつきながら、窓の外に目を凝らす。
 祖父の法要のために昨年秋に家族でT市を訪れたが、一人でのんびり、しかも冬というのは二年前の三月以来だ。
 大雪で列車が遅れたりなんてことはごめんだったから、わざわざ朝早い列車の指定を取った。
 T市駅に着くと雪は小止みになっていたが、列車を降りた途端、寒とした空気に包まれる。
 改札を通り抜けて駅を出ると、朔也はリュックをちょっと背負いなおした。
 見上げれば、昼をちょっと過ぎた頃というのに鼠色の空は重く、雪がひっきりなしに落ちてくる。
 鈍い太陽が申し訳のように顔を覗かせていた。
 予約しておいた駅に程近いホテルにチェックインすると、財布だけジーンズのポケットに突っ込んで、朔也は町に出た。
 高校時代と比べると町の景観は随分変わった。
 郊外には次々と大型店舗ができ、かつて賑わいのあった市街地の中心部は観光客をターゲットにした店が増えている。
 かと思うと昔はそれなりに賑わっていた通りでも今はシャッターを下ろした店がちらほらと目出つところがある。
 景気の波はこんな田舎の小さな町をも飲み込んだのだ。


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