「工藤さん、何かあったの? 良太ってば、ものも言わずに部屋に戻って、ご飯にも降りてこないのよ」
午後八時、ホテルのレストランに集まった面々の中に良太の姿はなかった。
アスカが気にして工藤に聞いてくる。
「そうなんだよ、昨日、帰るなり良太、勝手に部屋にあがっちまってさ」
「何かあったの?」
アスカが訝し気に小笠原の顔を覗き込む。
「それがよくわかんねーんだよ。急に、さっさとホテル戻ってきちまってさ。しいて言えば…」
その先を言う前に、やおら工藤が立ち上がったと思うや、エレベーターホールに消えた。
「何よ?」
工藤を横目で追いながらアスカは小笠原を睨みながら問い詰める。
「いや、真保のこと、ひょっとして良太、好きだったのかな、とか」
噂の真保はどうやらドレスアップに時間をかけているらしく、まだ現れていない。
「どういうことよ、何で良太が」
アスカがさらに小笠原を問い詰める。
「だから、真保と工藤がキスしてるの、偶然俺たち見ちまって」
「何よ、それ!」
アスカは声を上げる。
「なるほど、それで、工藤さんもそわそわしてたんだ」
傍で聞いていた秋山がしたり顔で笑った。
ノックの音は聞こえていた。
「おい、開けろ、良太」
という工藤の声に、また良太はベッドに座りなおす。
「いい加減にしろよ、あれは、黒川が勝手にだな」
結局、先に帰るには、飛行機の手配がつかずにホテルを出られなかった。
そこで工藤の顔を見るのもごめんだと、良太は部屋に篭城を決め込んだ。
ただし、こんな時にも腹は減るのだ。
それだけが何だか悔しい。
「誰が開けるもんか!」
だが。
ドアがノックされること十分、パタリと、音が止んだ。
それから五分、辺りはシーンと静まり返っている。
やっぱりあのまま女としけこまれるのは、どうしても嫌だ。
工藤はもう、女の部屋に行ったのではないだろうか。
不安が募る。
我慢しきれなくなって、良太はドアを開けた。
走り出すまでもなく、良太は横から腕を掴まれ、力ずくで、ベッドまで押し戻される。
「何すんだよ、だましやがって! 離せよ、あの女とキスしてたくせに!」
いつものパターンにはまるまいと、良太は腕を突っ張って阻止しようとする。
そんな良太の動きを読むかのように、工藤はするりとかわし、その体を押さえ込む。
「何だよ、あの女のとこに行けばいいだろ! ばっかやろ! でれでれしやがって!」
工藤に身体ごとベッドに沈められ、良太の無闇な抗いは徒労に終わっていた。
「行ってもいいのか?」
耳元でささやかれると、このやろう、と思いながらも、もう力が抜けていく。
「俺なんか、あんたのことに首を突っ込むな、なんだろ! もう金輪際かまわねーからな!」
「ああ、そうしろ」
腹が減っている上に散々スキーで力を出し切った良太には、抵抗する気力も残ってはいない。
それに引き換え、いい年のくせに工藤には力が有り余っているらしい。
だからといって、合意のもと、っていうのも良太としてはしゃくなのだが、結局は甘いキスにしっかりからめ取られたわけで。
セーターの中から胸に届いた工藤の指が妙に生々しい感触だ。
そんなことを頭の中で考えた途端、良太の中で燻っていた工藤への飢えが体中を駆け巡る。
良太の下肢の辺りでうごめく工藤の指が、すぐに熱いうねりを誘う。
じわじわと良太の体は工藤に占領されていく。
「はあ……っ」
ひとつ息をつくと、唇から恥ずかしげもなく喘ぎ声が飛び出した。
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