一日休んだだけで、といっても高輪の部屋でじっと寝ていたわけではなく、あちこちと電話連絡を取りながら過ごした工藤は、夜になってようやく空腹を覚え、出前の寿司をつまんだ。
良太は何度も電話をしてくるし、秋山もどうやら良太からいきさつを聞いたらしく、心配して連絡してきた。
じゃんじゃか電話が鳴るので、かえって工藤はうっとおしく、翌日はもうオフィスに出向いていた。
「工藤さん、出歩いていいんですか?」
咎めるような目を良太が向けると、いいに決まってるだろう、と工藤は取り合わない。
「ちぇ、勝手にしろってんだ」
それでも、良太にしてみれば、寝込むほどの大怪我でなかったことが不幸中の幸いと、工藤の怒鳴り声を聞いて普段どおりだと胸を撫で下ろす。
だが、良太が工藤のために車を出そうとすると、「お前は自分の仕事をしろ」と一括され、工藤はタクシーで出かけてしまった。
「ちぇ、人が心配してるのにさ」
ぶつぶつと口にする。
こんな時はもう仕事などしないで、工藤の運転手でもやっていたかった。
だが、状況が許さない。
KBCのドラマの進行は脚本家と監督との間で未だ揉め事が絶えず、相変わらず航海に乗り出した泥船のような危なっかしさがあった。
午前零時を回った頃、良太はくたびれ果てて自分の部屋へと戻ってきた。
朝から喧々囂々の監督と脚本家の間を何とか取り持って、進行をこれ以上遅らせるわけには行かないことを充分に心した上で、翌日からのロケに向かうよう懸命に言葉を尽くした。
それだけでなく、ロケ地の宿泊の手配、スタッフの手配、車の手配、さらにその上ロケに向かう車が気に入らないとごねる山之辺芽久のアスカに輪をかけた我侭をなだめすかし、と、とにかく手配したあとから次から次へと起こるトラブルを解決するべく飛び回った。
部屋に帰った途端ベッドに倒れこんだ良太を、今度はマメ猫やらナータンやら、可愛いやつらが、ご飯おねだり攻撃をしかける。
やっとの思いで猫にご飯をやり、ざっとシャワーを浴びた良太がバスローブのまま死んだように目を閉じていると、どこかでチャイムの音がするのを夢うつつに聞いていた。
「おい、良太」
上から降ってきた声に、良太は驚いて飛び起きる。
「何だ、工藤さん……お帰りなさい……」
「えらく疲れているところ悪いが、包帯を取り替えたい」
目を擦りながら朦朧とした頭で聞いていた良太は、包帯という言葉にはたと覚醒した。
「ちょ、大丈夫かよ、いいのか? 医者行かなくて」
良太は心配で聞いた。
「全治一週間といったろう。シャワーも浴びたい」
工藤は何てことない顔で言った。
「我侭な怪我人だな、シャワーなんてダメに決まってる」
「濡らさないようにラップでくるめば平気だ」
全く、勝手なんだから、こんな時間に、とブツブツ言いながらも良太は、上半身を脱いだ工藤の頑健そうな二の腕に巻かれた包帯を取りにかかる。
本当はほんの少しでも工藤が自分を頼ってくれたのだということだけで、良太は嬉しかった。
傷は上っ面は乾いているようだった。
だが、いく針か縫った痕の生々しさに良太は思わず顔をしかめる。
ラップなんかで大丈夫だろうかと思いつつ、言われたとおりラップをぐるぐると傷の上から巻きつけると、工藤はそのままバスルームに消えた。
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