桜の頃 6

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「え、何すんね……」
「知らん子に持ってかれたらたまらんからな。お前、持っとって?」
 ちぎった第二ボタンを、研二は千雪に差し出す。
「わかった。ほな、俺も……」
 千雪は自分の学生服から第二ボタンを引きちぎって、研二のポケットに入れる。
「これで、もうボタンはないって言えば平気や」
「誰も言わんかったら?」
 研二の言葉に千雪は笑う。
「そん時は逆に、面目がたつやろ?」
 研二も笑う。
「今日がほんまの最後なんやな」
 ふうと、千雪がため息をつく。
「あほやな、泣くな」
 研二が千雪の頭を大きな手でかき混ぜる。
「誰がや、お前こそ」
 
 二人はゆっくりと歩いていた。
 もうすぐ、こんな風に一緒に歩くこともなくなる。
 千雪は唐突に思う。
 研二が、もう、横にいなくなるんや。
 何か、言うことがあるような気がした。
 だが、それを探し出す前に、時間が追いついてしまった。


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