「え、何すんね……」
「知らん子に持ってかれたらたまらんからな。お前、持っとって?」
ちぎった第二ボタンを、研二は千雪に差し出す。
「わかった。ほな、俺も……」
千雪は自分の学生服から第二ボタンを引きちぎって、研二のポケットに入れる。
「これで、もうボタンはないって言えば平気や」
「誰も言わんかったら?」
研二の言葉に千雪は笑う。
「そん時は逆に、面目がたつやろ?」
研二も笑う。
「今日がほんまの最後なんやな」
ふうと、千雪がため息をつく。
「あほやな、泣くな」
研二が千雪の頭を大きな手でかき混ぜる。
「誰がや、お前こそ」
二人はゆっくりと歩いていた。
もうすぐ、こんな風に一緒に歩くこともなくなる。
千雪は唐突に思う。
研二が、もう、横にいなくなるんや。
何か、言うことがあるような気がした。
だが、それを探し出す前に、時間が追いついてしまった。
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