上京以来六年、父親と一緒に見つけたこの築二十年の安アパートには、今や京助が持ち込んだ衣類だの食器や鍋類だのが増殖している。
はっきり言って千雪は自分の意思ではないもののお陰でどんどん狭くなっている気がする。
「コーヒーでいいか」
「……ん……」
さっさと食べ終えて、湯を沸かす京助がたずねると、もそもそとチキンとレタス、トマトのサンドイッチを齧る千雪が生返事をする。
こうして食事を作ってくれたり、何だかだと世話をやいてくれるのはいいが、知り合って以来京助はこの部屋に入り浸り、当然合鍵も勝手に作り、近くに駐車場まで確保している。
始めは大学から歩いて十分ほどだから、最初は遅くなったときには都合がいいくらいな程度だったが、どうやら京助にとっては、狭くてもこの千雪の部屋は妙に居心地がいいらしい。
一度だけ編集担当が訪ねてきた時に京助と居合わせたこともあるが、絶対中には入ろうとしない担当者にはもちろん何の不審も抱かれることもなく、実はなし崩し的に半同棲生活となってしまったなどとは、誰も知る由もないだろう。
「五時か、六時半の便には間に合うな」
コーヒーを千雪に渡しながら、京助が言った。
「どっか行くんか? 京助」
どこかへ誰かと遊びに行くんだろうか? クリスマスがつぶれた代わりに。
ふいに千雪の気持ちの中で覚醒する面白くもない感情。
「ああ、お前もコーヒー飲んだら、顔洗って支度しろ」
「え?」
訝しげに千雪は京助を見やる。
「片づけが終わったらすぐ出かけるからな」
「出かけるて、どこへ?」
「とろとろしてると遅くなるから、さっさとしろ」
命令口調に眉をひそめながら、千雪はあくまでもマイペースでのろのろと顔を洗う。
京助は勝手に用意した千雪の着替えをベッドの上に置いて、どこかに携帯で電話をかけている。
ジーンズとセーターに着替えるとダウンジャケットを羽織ってマフラーを掴み、行くぞ、とせかす京助を追って千雪は玄関で履き慣れたバッシュをはいた。
「待てよ、どこ行くて?」
京助はそれには答えず、たったか先を歩く。
大通りに出るとタクシーを停め、千雪を先に載せて羽田を告げた。
「おい、羽田…て、どこ行くつもりや?」
「締め切りに間に合ったんだろ? せっかくの冬休みじゃねーか。息抜きしねーでどうすんだよ」
相変わらずのジャイアン口調で、京助はのたまった。
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