氷花 10

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 始めは大学から歩いて十分ほどだから、最初は遅くなったときには都合がいいくらいな程度だったが、どうやら京助にとっては、狭くてもこの千雪の部屋は妙に居心地がいいらしい。
 編集担当が訪ねてきた時に京助と居合わせたこともあるが、もちろん何の不審も抱かれることもなく、実はなし崩し的に半同棲生活となってしまったなどとは、誰も知る由もないだろう。
「五時か、六時半の便には間に合うな」
 コーヒーを千雪に渡しながら、京助が言った。
「どっか行くんか? 京助」
 どこかへ誰かと遊びに行くんだろうか。クリスマスがつぶれた代わりに。
 ふいに千雪の気持ちの中で覚醒する面白くない感情。
「ああ、お前もコーヒー飲んだら、顔洗って支度しろ」
「え?」
 訝しげに京助を見やる。
「片づけが終わったらすぐ出かけるからな」
「出かけるて、どこへ?」
「とろとろしてると遅くなるから、さっさとしろ」
 命令口調に眉をひそめながら、千雪はあくまでもマイペースでのろのろと顔を洗う。
 京助は勝手に用意した着替えをベッドの上に置いて、どこかに携帯で電話をかけている。
 ジーンズとセーターに着替えるとダウンジャケットを羽織ってマフラーを掴み、行くぞ、とせかす京助を追って千雪は玄関で履き慣れたバッシュをはいた。
「待てよ、どこ行くって……」
 京助はそれには答えず、たったか先を歩く。
 大通りに出るとタクシーを停め、千雪を先に載せて羽田を告げた。
「おい、羽田…て、どこ行くつもりや?」
「締め切りに間に合ったんだろ? せっかくの冬休みじゃねーか。息抜きしねーでどうすんだよ」
 相変わらずのジャイアン口調で、京助はのたまった。

 


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