氷花 29

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 モップを持って振り返った藤原に、「俺も何か手伝います」と声をかけた。
「いえ、お客様にそんなことは」
「何かじっとしてられへんし、それ作りかけですよね? 俺やりますよ」
「お気になさらず、今夜は出前でも取りますから……」
「でも、せっかく用意仕掛けでもったいないし。何、作ったはったんです?」
 頑として立ちふさがる藤原の横を通って、千雪はキッチンに入った。
「ハッシュドビーフとか、言っておりましたが」
「ハッシュドビーフか…」
 ちょっとそれは無理だな、と思いながら、千雪は棚を開けてみる。
 すると、買い置きのインスタントカレーの箱が目に留まった。
「あ、これ、使こてもええです?」
「それは賄い用かと、お客様には…」
「京助とちごて、料理はインスタントくらいしかでけへんし、これ、借ります」
 まだ、難しい顔をして千雪の様子を見ていた藤原だが、千雪が袋にあったジャガイモを取り出してピーラーで皮を剥き始めるとようやく諦めたらしい。
「それでは、くれぐれもお気を付けになって下さい」
 モップを持ってキッチンを去った。
 皮を剥いたじゃがいもを大き目に切ってボールに入れると、刻んであった玉ねぎを、フライパンでそれを炒め始めた。
 ふと見ると傍らの椅子に、ウサギ柄のエプロンが掛けてあったので、それを借りてつけると、ぎこちないながらにフライパンを動かした。

 


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