氷花 30

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「あれ? 咲子さんは?」
 材料を鍋に入れて煮初めてしばらくしてからだった。
 不意にかけられた声が京助によく似ていたので、千雪は振り返った。
 すると、どう見ても湯上りらしい、スエットの上下にタオルを首に巻いた長身の男が、キッチンの入り口で驚いた顔で千雪をじっと見つめている。
 京助が髪を黒く染めて立っているのかと一瞬在り得ない想像をした千雪だが、よく見ると印象がかなり柔らかいし、雰囲気も違う。
「咲子さん、具合悪くて病院に。京助と公一さんが一緒に行かはりましたけど」
「え、そうなの? 俺、風呂に入ってたから全然気づかなくて」
 言いながら、男はまたじっと千雪を見つめる。
「君、ひとりだけ?」
「え、はい」
 妙な聞き方をするな、と思いながら、千雪はカレーを煮込んでいる鍋を覗き込む。
「いい匂いにつられてきちゃったよ」
 気づくと男はすぐ傍に立ち、上から鍋を覗き込んだ。
「咲子さん、作りかけやったんで、カレーにしたんですけど、食べはります?」
「美味そう。俺、腹減っちゃって。いただこうかな」
 男は戸棚から皿を二つ取り出し、引き出しからスプーンを取り出して、キッチンのテーブルに並べた。
「ここで、ええんですか?」
「わざわざ面倒じゃない、あっちまで持ってくの」
 男はにっこり笑って肩をすくめてみせ、炊飯器から皿にご飯を盛りつける。
「しかし、珍しい。京助の彼女でキッチンに立ってくれる子なんて。京助が来てるっていうんで、今年はどんな女の子たちが来てるのかなと思って寄ってみたんだけど」
 また誤解されていると千雪はまたイラっと眉を顰める。

 


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