氷花 31

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「何と、君一人! いや、あの京助もタラシを返上せざるを得ないのも頷けるよ、京言葉もはんなり美人の君みたいな彼女なら……」
「すみません、俺、京助の後輩で、小林、言います。よろしゅうに!」
 千雪は男の言葉を遮るように、はっきりと、男を睨みつける。
「え……?」
「ひょっとして、京助のお兄さん、ですよね? …俺、京助ら戻るまで待ってますよって、先に召し上がって下さい」
 今度はまた、ハトマメな眼差しで男に凝視されながら、千雪は続けた。
「……これは、失礼……、いや、てっきり………」
 千雪が女に間違えられるのは今に始まったことではないが、会話をしていてもわからないらしいのは、声のトーンが女でもおかしくない感じだからかもしれない。
 とはいえ、勝手に勘違いするのは千雪の知ったことではない。
 ちょうど千雪が男の差し出した皿のご飯にカレーをかけたところで、藤原がやってきて、ちょっと二人を眺めてから口を開いた。
「たった今、京助さんからお電話がありまして、咲子さんは帝王切開の手術になったということです……紫紀さん、あの……」
「そりゃ、大変だったね。俺、全然気づかなかったよ、救急車の音もしなかったし」
 スプーンを持ったまま、紫紀と呼ばれた男は腕組みをする。
「ええ、救急車を呼びましたところ、大きな事故があったとかで出払っていて時間がかかるというものですから、京助さんと公一が車で行った方が早いだろうと」
「咲子さんのご主人は?」
 紫紀は怜悧な声で尋ねた。
「連絡はついたんですが、あいにく札幌に出張中で、すぐには戻れないということでした」

 


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