氷花 33

back  next  top  Novels


「いや、マジで、どこかでお会いした気がしたんだが。まあ、こんな美人さん、会ってたら忘れるわけないか」
 美人というキーワードに、千雪は心の中で再度ムッとしたが、初対面の相手だからとそれを何とか抑えきった。
「京助の後輩というと、君もお医者さん?」
「いえ、俺は法学部です」
 すると、しばし紫紀はスプーンを止めた。
「京助の友人の法学部の小林くん? って、まさか小林千雪…くん、じゃないよね? ミステリー作家の」
「はい、その小林千雪です」
 もとはと言えば自分が作り出した世間のイメージではあるものの、そのギャップを説明するのが面倒だと思いながら、千雪は続けた。
「眼鏡かけてもかけへんでも好奇の目ぇで見られるんです。それやったら人が寄ってこん方がラクなんです」
 自棄のように言い切ると、千雪はカレーを口に運んだ。
「なるほど、実に端的な理由だ。千雪くん、京助とつきあってどのくらい?」
「え、京助とは、上京してからやから……。うちの父が一人暮らしするの心配して、京助に頼んだらしくて」
 何となく妙な聞き方だと、また思いながら、千雪は父親を理由にした。
「ああ、そうか、君の父上は、K大学の小林教授だったね。京助が心酔して一年ほど京都にいたんだっけ。じゃ、その時に知り合ったの?」
「いえ、京都にいた頃は全然顔を合わせたことはなかったので」
 何だか身上調査のような聞き方に、ふと紫紀が自分たちの関係を勘ぐっているような気がして、千雪はあからさまにムッとした顔を向けた。
 やから嫌やったんや。
 家の人に知られるとか面倒極まりない。

 


back  next  top  Novels

にほんブログ村 BL・GL・TLブログ BL小説へ