氷花 6

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 京助はやはり、うまいこと、やっているのか。
 どれほど情熱的な言葉で千雪を翻弄しようと、別のところではまた別の言葉で女を手玉に取っている、ということか。
 胸の中のざわめきが一層重くなり、息苦しささえ覚えて千雪はカフェオレを飲み干した。
 この得体の知れない感情が、嫉妬というものだということはわかっている。
 だが、こんなじりじりと焼けるような焦燥感とはあまりつきあったことがない。
 自分に向けられた言葉がウソだとは思いたくないが、あちこちで語る愛もウソではないのかもしれない。
 俺だけを見ているわけではないのだ。
 俺だけを……
 よく似た思いを随分昔に感じたことはあった。
 けれどそれは、あの真っ直ぐに自分に向けられた眼差しによって、すぐに安堵に取って代わり、千雪にはそう縁のないものだったはずだ。
 昔、自分だけに注がれる視線があった。
 ふと、その深い瞳の色を思い出しそうになり、千雪はそれをやんわりと記憶の底に押しやった。
「先輩? 聞いてます?」
 佐久間の声に、千雪は我にかえる。
「数合わせなら他をあたれ。俺のことにはもうかまうな」
 千雪は立ち上がる。
「ちょ、先輩ぃ!」
「ごちそうさん、あ、ゴミも頼むな」
 千雪は飲み干した紙コップを佐久間の空のコップに重ねてテーブルに置くと、たったかカフェテリアを出た。

 


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