氷花 9

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「おい、メシだぞ」
 揺り動かされて再び目を開けた時は、既に外は暗くなりかけていた。
 覚めやらぬ頭で何とか身体を起こすと、京助がキッチンで鍋の蓋を取るのが見える。
「何で、携帯切ってるんだ」
 サンドイッチが盛りつけられた皿や湯気をたてているスープをテーブルに並べながら、京助が文句を言った。
 勝手知ったるもいいところであるが、大柄な京助がいるだけで、狭い部屋がまた狭く感じる。
「……佐久間が朝早うに電話してきよって」
「佐久間だぁ? 何でやつに番号なんか教えるんだ!」
「知らん。勝手に登録しよったんや……」
 ベッドから這い出してきた千雪はスウェットの上下のままテーブルに着いた。
 どうにかテーブルと椅子が置けるだけのキッチンに京助が一つ椅子を追加したものだから、さらに狭くなった。
 ただでさえバストイレは狭いユニットだし、六畳間はベッドと机、本棚でいっぱいだ。
 押入れの片側は本棚に入りきれない本で溢れ、もう一方は上段に衣類をかけるパイプが通してあり、下段には小さなタンスを置いて使っている。
 上京以来六年、父親と一緒に見つけたこの築二十年の安アパートには、今や京助が持ち込んだ衣類だの食器鍋類だのが増殖している。
 はっきり言って千雪は自分の意思ではないもののお陰でどんどん狭くなっている気がする。
「コーヒーでいいか」
「……ん……」
 さっさと食べ終えて、湯を沸かす京助がたずねると、もそもそとチキンとレタス、トマトのサンドイッチを齧る千雪が生返事をする。
 こうして食事を作ってくれたり、何だかだと世話をやいてくれるのはいいが、知り合って以来京助はこの部屋に入り浸り、当然合鍵も勝手に作り、近くに駐車場まで確保している。


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