「え、何ですて? 先輩方もめてはるん、原因はチワワでっか? 先輩方、チワワの取り合い?」
速水は天丼を平らげたばかりの佐久間をゆっくり振り返る。
「やっぱり佐久間、研究室で正解だな。検察とか弁護士とかやめた方がいい」
「ちょ、速水さんまで、何でそないなこと言わはるんでっか?!」
ムキになる佐久間には答えず、「なるほどな」と速水は独り言のように続ける。
「伝達が捻じれて伝わっていくそのわけは思い込みってやつか。で、その思い込みは往々にして目に見える外見上のデータから生まれると」
「一体何言うたはりまんの? 速水さん」
いつの間にか京助と千雪の言い争いは終わったらしく、今度は黙って京助はどんぶりを掻き込み、千雪はサラダをつついている。
その時千雪のポケットで携帯が鳴った。
「あ、小夜ねぇ、え、いや、いつもチョコレートケーキもろてばっかでお礼もしてへんかったし、花なんかで申し訳ないけど」
小夜子からバラの花束が届いたという連絡だった。
喜んでくれてるのなら、後ろめたさも半減するというものだ。
「あ、せや、千雪先輩、結局夕べはバラの花束のジュンさんとどないなりましたん?」
携帯を切った途端、佐久間が意気込んで聞いてくる。
「何だ、そのバラの花束の何とかってな?」
京助はまた千雪に険しい眼差しを向ける。
「それが昨日、研究室の先輩宛に豪華なバラの花束が届きましてん、熱烈メッセージつきで、ジュンさんって方から」
余計なことをと千雪は代わりに説明する佐久間を睨み付ける。