「あいつ、何で今日なんかいてるのや」
確かに悪い男ではないのかもしれないが、こと千雪に対してウザいほど慕ってくる。
慕うと言えば聞こえはいいが、要はズケズケと余計な干渉をしてくるのだ。
元々千雪の小説のファンだというのだが、謙虚さなどは微塵もなく、ほとんどストーカーじみて何かというと千雪に絡む。
「先輩~、ちょっと俺が便所行っとったらもういてないし」
ただ、彼女のいない千雪を心配してか、女の子を紹介しようとしたり、合コンに誘ったり、千雪のいでたちを何とかしようとしたりと、何となく憎めない理由からだったりするのだが、はっきりいって千雪にしてみればいらぬお節介なのだ。
口がうまくそこそこイケメンで、今現在、ちゃっかり雑誌編集者で美人な恋人もいる上、春から院に進むことになっているし、世の中要領よく渡っていくタイプだ。
「何や、今日は弁当持参ですか、二段重ねやなんて、えろ、豪勢でんな。まさか自分で作らはった…わけないわな」
佐久間は大盛りのカレーを乗せたトレーをテーブルに置いて、ガタガタと椅子に腰を降ろすと、興味津々で千雪が弁当箱の蓋を取るのを見つめている。
そんな佐久間に構う余裕もなくいい加減腹が減っていた千雪は、何の気なしに蓋を取った。
「へ……」
「わ……」
「おわ……」
途端、前、その横、右隣に座っていた連中が一斉にそんな声を上げた。
千雪と言えば、あまりに想像の範疇を超えていたため、それが何かを理解してまた蓋を戻すまで彼らにそれを凝視されることになる。
「い、いつの間に先輩、彼女作らはったん? 俺に内緒で! そんなでかいハートのバレンタイン弁当二段重ね!!」