かぜをいたみ10

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 やがてオーダーした酒とナッツやドライフルーツ、チーズやサラミなどが並ぶ皿がテーブルに置かれた。
 スコッチを口に含んだ檜山が「美味しい」と呟いた。
「創作能も披露するって?」
「ええ。ニューヨークはいろんな人間が集ってて刺激的だっただけでなく、想像力も広がりました」
 工藤の問いに檜山は簡潔に答えた。
 千雪は工藤がかなり檜山に興味を持っているらしいことに気づいた。
「匠、気ぃつけんと、このプロデューサーの悪だくみに利用されるで?」
「フン、いつ俺が悪だくみだ?」
 工藤は千雪を鼻でせせら笑い、「檜山はお前みたいにテレビやネットに取り上げられることに抵抗はなさそうだしな」などと言う。
「抵抗はないですけど、一応、あまりまだ狩野流を刺激したくはないです」
「まあ、今すぐにどうってわけじゃないから安心しろ」
「義母も父も好きではないですが、兄を中心に狩野流を盛り立てようと必死みたいです」
「そこへお前が新進能楽師とかってマスコミを騒がせるのは嫌だというんだろう?」
「そうです」
 檜山は頷いた。
「ゆっくり、足元を固めていきたいので。狩野流が落ち着いて、義母らの興味が俺から少しは離れた頃なら顔出しもいいかと」
「見ろ。檜山はきっちり大人な考えで先を見据えてるぞ?」
 工藤は当てこすりのように千雪に言った。
「フン、どうせ俺はガキで、行き当たりばったりやってるとか言いたいんですやろ」
「あら、本来の千雪さんはそういう喜怒哀楽がはっきりしてるとこがいいんだと思うわ」
 万里子がフォローになるかならないかくらいな言い方をする。
「……あ……」
 その時、檜山の携帯が鳴り、檜山は画面を読んだ。
「どないした?」
 千雪が聞いた。
「いや、実は研二にも千雪と会うって知らせたら、仕事が上がったから迎えに来てくれるって」
「え……」
 千雪は次の言葉が出てこなかった。
「じゃ、そいつもここへ呼べばいいだろう」
 工藤は言った。
 どうやら興味が檜山の方にいってくれているのは千雪には有難かったが、研二が檜山と親し気なようすが、妙に胸に刺さるものがあった。
 帰国してからまた辻や三田村と一緒に研二にも会ったが、その時は楽しいだけで再会も盛り上がった。
 千雪は仲間も元通りに近づいたような気になっていた。
 だがここにきて、檜山という存在が複雑な糸を絡め始めた気がした。
「研二、今忙しいらしいやん。結婚式関連の仕事があちこちから舞い込んだ言うてたし」
 俺もそのくらいは知っているんだとでも言いたげに、千雪は口にした。
「ああ、研二って、お前のダチか? 和菓子職人の。紫紀さんの披露宴でも顔を合わせたな?」
 工藤が千雪の顔を見た。
「ええ、俺の高校ん時の同級生仲間で、東京在住の三田村や辻とよう会うてます」
 千雪は俺の方が親しいんだ的に強調した。
「今、場所教えました。研二、来るって」
 檜山は屈託なく嬉しそうに笑った。


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