ACT 2
七月に入ってから、うだるような暑さが続いていた。
夏休みが待ち遠しいのは学生ばかりではない。
じりじりと焼けるような太陽は、せめて窓の外で見るだけにしたいものだと思いながら、法学の講義を終えて教壇を去ろうとしたところで、千雪は学生につかまって質問を受けた。
京助が持っている法医鑑定学の講座の階段教室満杯というほどではないが、小林千雪という特異な、否、『ネクラ、ヘンジン、クサソーなオヤジ』な評判に関わらず、純粋に学んでいる学生も多々あり、面白半分な学生も含めるとそこそこ小さめの教室は一杯になる。
たびたび質問をぶつけてくるこの女子学生も真面目な部類で、どちらかというとあまり見てくれには興味がなさそうな野暮ったさが漂う眼鏡の学生である。
真面目な学生には真面目に応対し、気づくと既に廊下で立ち話をして三十分ということも往々にしてある。
その後千雪が慌てて研究室に戻り、次の講義の準備をしているところへ、携帯が鳴った。
「ああ、工藤さん。えー……? ドラマの顔合わせ? 暑いから嫌です」
小説のドラマ化の話は聞いていたが、いよいよクランクイン間近になり、顔合わせの時に原作者の千雪を紹介するから時間を取っておけと工藤から再三せっつかれていた件だ。
即断して切ろうとしたが、「まあ待て」と工藤が言い募る。
「顔合わせに来なければ、いずれ撮影のどこかで顔をだしてもらうことになるぞ? 今回挨拶だけ済ませれば、あとはよしにしてやる」
してやるとか、偉そうに!
とは心の中で文句を言った千雪だが、こうやってしつこく連絡されることを考えれば、初めに挨拶だけで終わるのならそれがベターかも知れない。
「わかりました。ただし、一度で済むいうことならやから」
不承不承承諾すると、そう念を押して、千雪は携帯を切った。
自分が映されるのはもうご免だが、ドラマの撮影など、いわゆる万人が憧れる業界の華やかささえも、千雪にかかればウザったいことこの上ない。
とはいえ、一度くらいは工藤の顔を立ててやる意味でも、顔合わせの挨拶くらいなら仕方がないかとは思う。
顔合わせは金曜の午後四時からMBC本社ビル内で行われることになっていた。
講義が終わってから、千雪はタクシーを拾ってMBC本社ビルへと向った。
ベストセラーとなった小説のシリーズは既に二作目の映画が秋に封切り予定であり、第三段も既に制作に向けて舵を取っているようだが、今回はシリーズ二度目のドラマ化となる。
主演は大澤流という若手俳優と端田武という大物俳優だという。
そういえば、映画封切り前にインタビューがあるとかも言うてなかったか?
千雪ははたと工藤が言っていたらしいことに思い当たる。
「ったく、もう原作者とか関係なく勝手にやればええんや」
考えるとイラついて、千雪は思わず文句を口にした。
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