かぜをいたみ3

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 空き巣、引っ越し騒動、その他もろもろですっかりつむじを曲げた千雪に、なんとかドキュメンタリーへの出演を承諾させるべく、工藤はあの手この手でそうでなくてもマスコミへの露出を嫌う千雪を揺さぶった。
 今回のドキュメンタリー番組では、そもそもが原夏緒の作品を語るというのがテーマで、工藤は千雪に芸大教授であり日本画家の君塚英太郎との対談を打診してきたのである。
「第一俺は画家でもないし、いくら親が画家やったからって、絵のことやなんかわかるはずないですやろ」
「お前はただ絵に対する感想か何か言ってりゃいいんだ。絵の説明なんか君塚教授が勝手に語る」
 工藤は言い募った。
「ほな、別に俺やのうても、誰ぞ原夏緒のファンかなんか引っ張り出してきたらええんちゃいます?」
 取り付く島もない千雪に、工藤がうった最後の手段は、千雪が在籍する宮島研究室の宮島教授だ。
 これまでも宮島研究室OBという立場を利用して工藤は宮島教授経由で千雪に仕事を押し付けてきたのだが、今回もたまたま宮島教授が君塚教授とは顔見知りの仲だったこともあり、宮島教授に言われるとよほどのことでもない限り断り切れない千雪は、渋々運と言わざるを得なかった。
「君塚教授は穏やかで理性的な人だよ。君が留学する前の年だったかな、君の母上の原夏緒氏の作品展が大々的に開催されただろう? あれ以来原夏緒のファンが増えたらしいし、君塚教授は前々から原夏緒の作品を研究していて、ぜひ君にも会ってみたいと言われたんだよ」
 宮島教授のある種真綿で首を締めるがごときじわじわとした説得力には千雪も感服しているのだが。
 ほんまにあの策士! 工藤のやつ!
 思わず知らずフォークを食べていたミートソーススパゲティにぐさりと刺した千雪を見て、「うわお!」と向かいで相変わらず大盛カツ丼を掻き込んでいた佐久間が身を後ろへ逸らす。
「どないしはったん!? 先輩!」
「何がや!」
 それこそ突き刺すがごとき鋭い視線を向けられた佐久間は、「な、なんでも……」とそれ以上口にできなかった。
 青山プロダクション社長でMBC時代は鬼プロデューサー、辣腕として知られた工藤は、独立して以来、会社は弱小ながら業績は右肩上がり、近年は千雪原作の小説を映画化し、そこそこの興行成績を叩き出したことで、業界内ではさらに名を挙げていた。
 ただし、縁は切っているものの伯父が指定暴力団中山組の組長だという工藤の特異な出自のお陰で、募集をかけても新入社員が入ってくれることはなく、半分諦めていた矢先、面接にきても伯父が組長云々を工藤が口にすれば大抵回れ右で帰っていく者ばかりだったはずが何と、最近、帰っていかなかったという奇特な学生が一人いて、めでたく新入社員となったらしいことを千雪も知ったばかりだ。

 


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