かぜをいたみ4

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「にしてもあの工藤の下でやっていこうやなんて、一体どんな猛者が入ったんや?」
 ほんまの試練は入った後やで?
 工藤が中山組組長の甥や、でビビっとるくらい大したことやないて思い知らされるで。
 何せ鬼の工藤、横暴、パワハラ、且つ策士やからな。
 千雪は密かにその新入社員がいつまでもつか、と逃げ出さないとも限らないことを勝手に危ぶんだ。
 まあ、逃げられたかて工藤さんの自業自得いうとこやから知らんけど。
 千雪は強引に番組出演を承諾させられた腹いせに心の中でそんなことを考えて多少なりとも留飲を下げた。
「ブツブツ言うて、先輩なんか、殺気立ったはる? 俺、何かしました?」
 恐る恐るな佐久間の声ではたと我に返った千雪はまたギロッと佐久間を睨む。
「胸に手ぇあててよう考えてみ!」
 千雪は捨て台詞のように言うと味も何もわからぬまま食べ終えた食器を持って立ち上がった。
「え、何ですのん? 手、当ててもわかれへんし、先輩~!」
 千雪の八つ当たりをまともに受けた佐久間は首を傾げながら、情けない声を上げた。
 
   

 撮影の日、千雪はランチを早めに取って指定されたスタジオに向った。
「待てよ、万里子さん。これ、俺が着るん? もうちょっと地味な方がええんちゃう?」
 アルマーニのスーツを押しつけられた千雪は思い切り眉をひそめる。
「それ地味な方よ? せっかくのTVだし、このくらい平気よ。こっちのポール・スミスとかでもいいと思うんだけど」
 どちらも明るい色目だが、ブルーグレイのスーツを万里子は選んだ。
「千雪さん、いつももっとカッコいい、カラフルなの着てるじゃない」
 今回の番組は、少し年配の女性の局アナが司会を務めるが、君塚教授と千雪と三人並ぶと、暗めで固そうな絵面だからという理由で、今は独立しているが、以前工藤の会社所属だった俳優の小野万里子が一緒にキャスティングされた。
 千雪の小説を原作にした映画「花のふる日は」に出演し、一時工藤の会社に来る前の事務所社長との不倫騒動が取り沙汰されて仕事が干された形になっていた万里子は改めてその演技力を評価され、カムバック的に名を挙げており、この際、知的なイメージをもう少し定着させようという工藤の狙いもあった。
 万里子は会社のオフィスで千雪と出くわして以来、千雪にとっても気の置けない話ができる希少な存在で、また、メイクが得意でもともとスタイリスト希望だった万里子は、巷に素顔を晒したくない千雪のメイクを引き受けてくれていた。
 録画撮りは、千雪と万里子の方は一日のみで済みそうだった。
 君塚教授は作品についての論評を、既に撮り終えている。
 秋に放映予定のこのドキュメンタリーは、MBCの番組で、日本画家原夏緒を特集するものだ。

 


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