かぜをいたみ50

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「え、広瀬さん!」
 千雪の声にようやく警備員も駆け付けた。
 携帯で救急車を呼んでいた千雪は驚いた。
「広瀬って、こいつ?」
 警備員は即座に工藤を呼び出した。
「一体どうしたんだ! おい、良太!」
 オフィスから慌てて出てきた工藤は、路上に横たわる良太を見て叫んだ。
 運よく比較的早く救急車が到着し、良太を運び込むと工藤は一緒に乗り込んだ。
 千雪はどこの病院かを救急隊員に確認すると、開けっ放しのオフィスのことを警備員に頼み、バイクで後を追った。
「広瀬さん、大丈夫ですか?」
 千雪は広瀬が運び込まれた第一虎ノ門病院に駆け込むと、救急外来で広瀬と工藤を探して声をかけた。
「今、念のためにCT撮ってる」
「何か事件に巻き込まれたんやろか」
 まさかこんな形で青山プロダクションの新入社員と顔を合わせるとは思ってもみなかった。
 工藤を見ると険しい顔で壁に凭れている。
 ひょっとしたら工藤さん関係の?
 いくら縁を切っているとはいえ、向こうはそう思ってくれないかもしれない。
 あの世界はいろいろ争いごともあるかもしれんしなあ。
 すると携帯に電話が入ったらしく、工藤は隅の方まで行って電話をしている。
 ほんま、こんな時まで忙しいおっさんや。
 すぐにまた険しい顔のまま戻ってきた工藤に、担当医が来て説明をしたところによると、重篤ではないが、全身に打撲、至る所に擦過傷、さらに首を絞められたような跡があり、二、三日の経過入院を勧められた。。
 それとともに警察に知らせた方がいいのではと言われた工藤は、「そうですね、それは私の方から」と答えた。
 病室に移された広瀬はまだ眠っていたが、頭から腕から巻かれた包帯が痛々しい。
「大丈夫なん?」
 千雪は難しい顔で広瀬を見下ろしている工藤に尋ねた。
「ざっと調べた限りでは、組関係の何かに巻き込まれたわけではないらしいが」
 千雪はそうとは聞かなかったが、千雪がひょっとしてと思っていた疑問に答えたように工藤は重い口を開いた。
「悪かったな、妙なことに巻き込んで。帰っていいぞ。映像チェックはまた今度でいい」
「お大事に」
 千雪がそう言って病室を出たすぐに、「バッカヤロ!」という工藤の怒鳴り声が聞こえ、千雪はまた病室のドアを開けた。
「このくそ忙しい時に、世話かけやがって」
「はあ……申し訳…ありません」
「あ、気ィついた?」
 怪我人にそない怒鳴らんでもええやろ、と思いつつ千雪は広瀬に声を掛けた。

 


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