かぜをいたみ6

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 工藤はそれ以上何も聞かなかったが、すかさず狩野流と言う言葉が工藤の口から出てきたことで、檜山匠が工藤も一目置いているような存在なのだと千雪は理解した。
「その人、留学中に知り合ったんなら、素の千雪さんで付き合ってる人?」
 他の人間が聞いたら妙な聞き方だが、万里子の言いたいことは千雪にもすぐに伝わった。
「ああ、そや」
 推理作家の人相風体などたまにマスコミやネットに小さく取り上げられる程度で、さほど問題視もされないし大抵どんな顔だったかなどすぐに忘れ去られるのが常だろう。
 それが何故小林千雪の場合だけ妙に巷に広まったかといえば、モジャ頭に黒縁メガネ、さらにその辺のオヤジが着ていそうなおかしな色のジャージの上下にこれもスーパーなどで売っているスニーカーならぬ運動靴という、あり得ないだろう、だがアニメのコスプレのごとく一度目にしたらナニソレ的な出で立ちだけがマスコミに取り上げられたためだ。
 一時はT大のキャンパスまでやってきたマスコミが、逆にネクラだ、変人だ、クサそうだと学生の話に尾ひれをつけて面白おかしく宣伝してくれたわけだ。
 せいぜい大学のキャンパス内くらいで騒いでいる分には、わざとそう仕向けた千雪としては結果オーライだったのだが、マスコミにここまで騒がれるともはや煩わしい以外の何物でもなかった。
 せっかく二年程日本を離れてのびのびと過ごせていたはずが、日本に戻った途端、様々な面倒ごとが降りかかり、いっそまたニューヨークへとんぼ返りしたくなってもおかしくない状況で、イライラを工藤や佐久間にぶつけてみたものの、何の解決にもならないのは千雪が一番わかっていた。
 そもそも何故そんなみょうちきなコスプレをするに至ったか。
 郷里の街の人や同級生らは無論のこと、この工藤や万里子ら近しい人間なら知っているのだが、原因はその稀有な美貌にあった。
 本人は生粋の日本人だと言い張るが透き通るような白い肌といい、繊細に整ったパーツで構成された顔といい、小作りな顔に一八〇センチ近い身長、手足の長さといい、男とか女とかを超えて黙っていればよくできた人形のような風情だ。
 その見てくれのせいで子どもの頃から人にジロジロ見られたりするのはもとより、当然のように女の子に騒がれ、ストーカー染みた男に付きまとわれ、と数えればきりがない嫌な思いをしてきた。
 そこで思案したのが大学デビューだ。
 絶対誰も寄って来なくていいコスプレを実行したわけだ。
 これが千雪にとっては功を奏したことになる。
 まあ、千雪をよく知る者なら口を聞けば本来我儘で毒舌家だが、竹を割ったような正義感の持ち主なため、上級生であれ明らかに理不尽な行為を目の当たりにしたら食って掛かる怖いもの知らずなところが愛すべき存在だとわかっている。
 だから特に高校時代の仲間との結束は固い。
 留学中も同級生の研二、三田村、辻が遊びに来て、一週間くらい滞在していった。
 京助の母親の家は十人くらいは十分暮らせる部屋があったから、いつぞやの合宿のように毎日が楽しかった。
 千雪も少しずつ文章も書けるようになったことを、皆がよかったと言ってくれた。
 女性陣も桐島恵美と菊子が入れ替わるかのようにやって来てこれも一週間はいて、あちこち案内させられた。


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