かぜをいたみ7

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 恵美と三田村の婚約を知ったのはこの時期だ。
「やっと俺も報われる」
 感涙もので告白する三田村に、「まあ、これからやな」と訳知り顔の研二がまだ不安でいっぱいの三田村をさらに不安にさせた。
 付き合っていたものの、ヨーロッパを中心に演奏活動を続けているピアニストの恵美と、東京で会社勤めの三田村は紆余曲折あっての結論だったらしい。
 千雪だけでなく、皆が少しだけ重いものを手離しつつあった。
 そう言えば、大学で知り合った匠を研二らに紹介したのもちょうど三人がニューヨークに遊びに来ている時だったと、千雪は思い出した。
 珍しく千雪の容姿を気にしないで気さくに声を掛けてきたのが匠だった。
 京助と千雪がステディな関係なんだとごく当たり前に受け取った。
 そんな匠は研二らともすぐに打ち解けた。
 長くニューヨークにいるが日本人の友達はなかなかできなかったと匠も喜んでいた。
 ちょくちょく日本に帰っていたのは、新進能楽師として流派を超えた舞台を定期的にやるようになったからだと言っていた。
「こないだ帰った時に茶会を兼ねて野外能を開催したんだけど、研二のところで作ってもらったお菓子がひどく評判がよくてさ」
 ニューヨークでの最後の秋だったか。
 しばらく日本に帰っていた匠が楽し気に千雪に報告してきた。
 以来、ラインで研二と連絡を取っている匠から、研二の近況を知るようになった。
 匠とは変わらぬ付き合いを続けていたが、何かが千雪の中でずっと燻り続けていた。
 先に京助と千雪が帰国し、すったもんだあって千雪が引っ越したりしているうちに季節は巡り、匠がいよいよ帰国することになったと知らせてきたのが一昨日のことだった。
「お連れ様がいらっしゃいました」
 老舗の寿司やで個室に通されて数分後、匠がスタッフに伴われて現れた。
「こんばんは。檜山と言います」
 檜山は工藤や万里子に対して丁寧に挨拶した。
「工藤だ」
「小野万里子です」
 檜山は千雪の横に座ると、「女優さん、ですよね?」と万里子に言った。
「ええ。能楽師さんですって?」
「はい」
 ある意味昔人形のような、ある意味武将のような、檜山の佇まいはそんな不可思議さを醸し出していた。
 さらにそうやってとっくに世に言う小林千雪の仮面を取り払った千雪と並ぶと甲乙つけがたい美しい人形が並んでいるかのようだと、万里子は思った。
「この人が俺の小説を勝手に映画化しよったプロデューサー」
 ただし、千雪の場合口を開かなければ。
「二作目が秋に封切りだ。その前に、一度はインタビューあるからな」
 工藤も悪びれもせず言った。
「そんなん、勝手に記事書かせといたらええでしょう。インタビューしたことにして」
 大体二作目に関して言えば、留学先にやってきた工藤が、講英社の編集者多部を紹介した時、ついでのように承諾を求めてきたもので、千雪も帰るまでにとか急かされてうっかり返事をしてしまったのだが、後になってしまったと思った時にはもう遅かった。

 


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