かぜをいたみ8

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「本来なら制作発表の時に原作者も顔を見せるところだ」
「冗談やない」
 即座に千雪は工藤に対して反論する。
「フン。まあいい。ただし、第三弾はスポンサーとタイアップで準ヒロインのオーディションがあるから、そこには顔を出してもらうぞ」
「はあ? 第三弾とかそんな話聞いてへんし」
「今、言っただろう」
 フンっと工藤は鼻で笑う。
「いいじゃない、二作目も楽しみにしてるのよ? 映画」
 万里子が言った。
「できるもんなら次も出してもらいたかったくらいだわ」
 そんなことを言われると、千雪も悪い気がしないでもない。
「楽しみにされてるのなら、いいことじゃないか? 話を聞いてると千雪は自分の作品を過小評価してる気がする」
 檜山がそんなことを言う。
「檜山の言うとおりだ。俺が下手な作者の小説なんか取り上げると思うか?」
 ニヤニヤしながら工藤がのたまう。
「そのニヤニヤが曲者や」
 千雪はちょっと工藤を睨んだ。
 そこへスタッフは寿司を運んできたので、しばらくはみんなが食べることに専念した。
「やっぱ、本場の寿司は美味しいですね」
 あらかた食べてから檜山がボソリと言った。
「ニューヨークにいたんだったな。拠点を東京に移すのか?」
 工藤が檜山に尋ねた。
「ええ。家との騒動の余波もそろそろ下火になってきたようだし」
「兄貴に宗家を継がせて自分から家を出たって?」
「そんなカッコいいものじゃないです。実際、派閥が誰を立てるかで泥仕合ってみっともないでしょう。母が亡くなった頃から義母、兄の母がしゃしゃり出てきて、俺に対して明らかな妨害工作とか。うんざりですよ。だから母方の檜山の祖父に話して、祖父の養子にしてもらいました」
「お家騒動とか、大変そう」
 万里子は眉を顰めて檜山を気の毒そうに見た。
「お兄さんのお母さんが義母?」
「最初に父親と付き合っていたのは義母で、それを家柄を理由に祖父がうちの母と父を結婚させて俺が生まれたわけです」
「あらあ、そのまま、ドラマになりそうな展開」
「渦中にいる者にとってはほんと冗談じゃなかったですね。そもそも俺は純粋に能がやりたかっただけだし」
 檜山は淡々と語る。
「技量は檜山の方が兄貴より上だろう」
 工藤が言った。
「へえ、工藤さん、お能なんかも知ったはるん?」
 千雪が突っ込み気味に尋ねた。
「とにかく一時お家騒動でマスコミも騒いだ。宗家をどっちが継ぐかとか」
「兄には、自分を卑下するところがあって、それが演舞にも出てしまうんでしょう。兄を嫌いなわけじゃないし、あの家で唯一心を許せる人でしたよ。他の誰も嫌いでした」
「なるほど、演技には心が映し出されるいうわけやな」
 千雪は檜山の言葉に頷いた。
「次の作品は能の宗家を舞台に書くとか?」
 万里子が嬉々として言った。
「歌舞伎とか能とか日本の芸能を扱った話、結構あるしなあ」
 千雪は万里子の言葉に満更でもなさそうに言った。
「お前はお前の視点で書くだけの話だろ?」
 工藤が事も無げに言う。
「千雪の小説に俺が出る?」
 すると意外にも嬉し気に檜山が千雪を見た。

 


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