Novel ◆ 京助x千雪Top ◆ back ◆ next
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ACT 2
八月に入ってから、うだるような暑さが続いていた。
じりじりと焼けるような太陽は、せめて窓の外で見るだけにしたいものだと思いながら、犯罪心理学の講義を終えて教壇を去ろうとしたところで、千雪は学生につかまって質問を受けた。
京助が持っている法医鑑定学の講座の階段室満杯というほどではないが、小林千雪という特異な、否、『変人オヤジ』な評判に関わらず、純粋に学んでいる学生も多々あり、面白半分な学生も含めるとそこそこ小さめの教室は一杯になる。
たびたび質問をぶつけてくるこの女子学生も真面目な部類で、どちらかというとあまり見てくれには興味がなさそうな野暮ったさが漂う眼鏡の学生である。
真面目な学生には真面目に応対し、気づくと既に廊下で立ち話をして三十分ということも往々にしてある。
で、慌てて研究室に戻り、次の講義の準備をしているところへ、携帯が鳴った。
「ああ、工藤さん。えー……? ドラマの撮影、ですか? 暑いから嫌です」
以前から自身の小説のドラマ撮影に顔を出せと工藤から再三せっつかれていたのだ。
「わかりましたよ。今度の金曜日ですね、はい」
一度くらい来いと工藤に言われ、不承不承千雪は行くと返事をした。
自分が映されるのはもうご免だが、ドラマの撮影など、いわゆる万人が憧れる業界の華やかささえも、千雪にかかればウザったいことこの上ない。
とはいえ、工藤には何かと世話になっているわけで、工藤の顔を立てる意味でも一度くらいは仕方がないかとは思う。
金曜の講義が終わってから、千雪はタクシーを拾って六本木のスタジオに向った。
ベストセラーとなった小説は既に二作が映画化され、第三段もクランクイン間近であるが、今回はシリーズ初のドラマとなる。
映画同様全面的に工藤に任せてあるので、脚本やキャスティングにも一切口を挟むことはしないが、脚本家の西村や監督の大秦らにも挨拶くらいはしなくてはならないだろう。
工藤高広という男が、広域暴力団中山組組長の甥などという生い立ちを背負いながらも、強引でさえある実力の程を評価をされてきたのは、確かに独り立ちした俳優たちがそれなりの成長を見せているからである。