「そうか、先輩がいるんなら、大丈夫か」
とりあえず一つは安心要素にはなるかもしれない。
「大丈夫かって、ガキじゃあるまいし、大丈夫もクソもあるかよ。先輩もバイトしてるから、俺らになんかかまってられねーよ。俺らだけで回るんだよ」
かぶりと紅茶を飲み、声を大にして悠は主張する。
「エコノミー?」
「俺をおちょくってんのか!? あんたらみてーに、日帰りでヨーロッパくんだりまでお使いにいくようなご身分じゃねーんだよっ!」
「さやかと一緒にしないでくれ。しかし初めてなんだろ? ヨーロッパ行くのなんて」
喚き散らす悠をまあまあ、となだめて改めて聞く。
「ヨーロッパもクソもあるか、日本ってか本州から出たことなんかねぇし」
「本州……………」
これはやはり、あちこちいろいろ連れて行ってやらねば、と藤堂は思う。
「そうだ、パスポートは?」
「今日、やっともらってきた。ったく、面倒っちーんだからよ。おかげで金、すっからかん」
悪びれもせず、悠は言った。
「そう、お金、あるのか? 念のために多めに持っていった方がいい。今度こそ絵の代金、ちゃんと使いなさい」
そうである。
藤堂が買った、はずの今このリビングのひとつの壁一面を飾っている絵は悠の個展の際、出品したものだ。
だが、その代金を悠はどうしても受け取ってくれないのだ。
曰く、『俺の絵にんな大金かけられっかよ! バッカじゃねーの?』