花びらの囁き 32

back  next  top  Novels


 ここなら迷いようもないだろう、と藤堂は絵の前でたたずむ悠を遠くから見つめていた。
 食事を済ませてからフィレンツェに入ったのは、夜になってからだ。
 ティッツィアーナをホテルに送り届けると、藤堂は河崎の持ち家に向かうが一緒にこないか、と二人を誘った。
 お言葉に甘えて、と言いかけた高津を遮って、悠は断固としてホテルにいく、と主張した。
「じゃあ、明日はウフィッツィへ行こう」
 そう言ってフェラーリで去っていく藤堂を見送って、「どこが仕事だよ」と高津は笑う。
「いいのか? 彼女と藤堂、どうかなっちまっても」
「うるさいな、ティッツィアーナはホテルで降ろしただろ」
 狭いツインの部屋だが学生が泊まるには十分すぎる贅沢さである。
 ここには風呂もついていた。
 悠は窓を開けた。
 古い何百年も前の、レオナルドやボッティチェリがいた頃と同じ空気が流れ込んできた気がして、悠はちょっと身体を震わせる。
「いよいよウフィツィか! 今度こそ、しっかり見てやる」
 高津は宣言し、悠もうなずいた。

 


back  next  top  Novels

にほんブログ村 BL・GL・TLブログ BL小説へ